第1章 たぶんそいつら全員幽霊
昔から、他の人には視えないものが視えていた。
空中に浮かぶ女の人だとか、踏切の前でずっと佇む女子高生とか、ビルの屋上から何度も何度も飛び降りるスーツ姿の男の人とか。それが幽霊だとかお化けだとかそういう風に呼ばれる存在だと気付いたのは、小学生に上がってすぐのことだ。
「こいつ、お化けが視えるって嘘つくんだぜ!」
クラスメイトの男の子に、そう言われたのがきっかけで。
どうしてこんな話になったのかなんてもう覚えちゃいないけれど、確か、いつものように窓の外から覗く人影のことを友達に話していると、突然その子が割って入ってきたんだった気がする。
クラスの中でもガキ大将的存在のその子は、周りの男の子達と可笑しそうに私を指さして、それから「やーい嘘つき!」と両手を広げて叫んだ。
「嘘つきは泥棒の始まりだぞ!」
「……嘘じゃないし本当だよ。だってほら、君の後ろにもいるよ」
「う、嘘つくなよ! ママがそんなのいないって言ってたもん!」
「本当にいるよ。ずっと君のこと見てる。髪の長い、天井に頭がぶつかるくらい背の高い女の人」
「うるさい! 嘘つきは黙れよ! いないっていってるだろ!」
そう叫んだその子はみるみるうちに目に涙をためてわんわん泣き出してしまった。そして、その泣き声を聞きつけた先生が、慌ててどうしたのかと言ってきたのを覚えている。
――多分、それからだったと思う。
学校から孤立して、先生にも「なんでそんな嘘つくの?」と言われて。母親も父親、兄弟も信じてくれない。誰も、信じてくれない。だから私の友達は、幽霊である彼らだけだった。誰かに嘘つきと言われるたびに彼らに泣きついて、そしてまた嘘つきと言われる。その繰り返し。
皆には彼らの姿が視えてないと気づくのには少し時間がかかった。だって、自分には視えていたから。当たり前のように目の前にいる彼らが視えていないなんてこと、考えもしなかったから。
でも、そんな私も一度だけ、彼らが怖いと思ったことがある。
それは、私を嘘つき呼ばわりしていた男の子が、川で溺れて死んだって聞いたその時。
ずっと無表情だったあの天井に頭がぶつかるくらい背の高い女の人がすっごく嬉しそうに笑っていた時ぐらいだ。