第2章 ラッキーガール
エースの肩を叩く。
「なあ、なんの話してんだ?このオッサン誰?」
「ティーチだ。ついでにむこうのモヒカンがサッチで、俺がエースな。今はお前のぜんこうせいけんぼうと、悪魔の実の能力の話だ」
エースは二人のオッサンに向き直り、親指で彼女を指すと「こんな感じで30分前後しか記憶が保たねェ」と心配そうに顔をしかめた。
「「今までどうやって生きてきたんだ…」」
3人の心情が一致した瞬間だった。
ラッキーガール
オイルクロスで覆われた表紙、丸みを帯びた角、中性紙、栞ひも、ゴムバンド、拡張ポケットのある上等な手帳。そして、インクペンとポラロイド電々虫。
マルコはメルトリリスのタトゥーから、恐らく彼女がいま1番必要としているものを早急に調達してきた。彼女は嬉しそうに礼を述べると、早速手帳にペンを走らせる。自身がいま置かれている状況や会話の内容を記録しているのだろう。そうして、おもむろにポラロイド電々虫を周辺の人間に向ける。
「エース、こっち」
振り向きざまにカシャリと音がなり、写真が出てくる。
「あっ!メルティ、お前いまいきなり撮ったな!?」
エースの文句を無視して、マルコ、サッチ、ティーチの写真を撮り終わると、写真の裏に名前や人物像、自分との関係を記しはじめた。
「ほー、なるほどな。マルコが手帳とペンを買ってくるから何ごとかと思えば。これで忘れてもある程度はどうにかなるって訳だ」
サッチが感心したようにつぶやく。
「メルトリリスちゃん、おれ男前に撮れてる〜?」
キッチンから出てきたサッチはメルトリリスの正面に腰掛ける。が、彼女は特に反応を示さない。え、おれ無視された?などと眉を下げる彼にエースは苦笑いで返した。
「こいつ、自分の名前覚えてねェの。"メルティ"って呼ばなきゃ反応しねえぞ」
「医療班の話じゃ、前向性健忘記憶障害になったのは3,4歳頃だそうだ。つまり、いまメルトリリスの記憶は3,4歳までのものしかないんだよい。その間に"メルティ"としか呼ばれていなかったから、本名が認識できないままなんだろう」
「そんな幼ェ頃に脳に受傷なんざ普通に暮らしてたらまずあり得ねえだろうに…」
ティーチはマルコの話を聞いて彼女に同情したらしかった。