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recent〈ONE PIECE〉

第1章 21時の邂逅


女は踏み出した足を滑らせて、海へと真っ逆さまにダイブした。これもまた逃げのチャンスだと思ったかも知れないが、不幸以外の何ものでもない、彼女は泳げないらしかった。本人さえ知らなかった事実である。他人が知っているわけもなく、どれくらい時間が経ったか、女が浮いてこないことにやっと気づいてテンガロンハットは叫んだ。
「ハルタ!飛び込め!」
 緑のブラウス、否、ハルタは「人遣いが荒い!」などと言いつつ、宵の海へ飛び込んだ。
 この出会いは、後にある大きな事件のちょっとしたプロローグに過ぎない。





21時の邂逅





 時は遡ること、2時間前。19時頃であろうか、程よく日も落ちた頃。
 かの有名な白ひげ海賊団が北西の港へ停泊していた。白く、大きく、美しい、鯨を模したその船はモビーディックと言うらしかった。1から16番隊の隊員たちは上陸するやいなや、とある酒場をいっぺんに貸し切った。今夜は仕事を放っておいて、久々の陸での酒盛りと洒落込むこととなる。
 のであるが、宴もたけなわ、最高潮の盛り上がりを見せる中、ひとり、またひとりと女を連れ立って席を立つ者。酒にのまれて潰れるもの。些細な喧嘩から殴り合いに発展する者。流石海賊と言おうか、とにかく自由奔放な無法地帯と化していた。
 それに乗じて、4番隊隊長のサッチを筆頭に、1番隊隊長のマルコだとか、16番隊隊長のイゾウだとか、色男な隊長たちまで姿を消す始末である。
「オイ、ハルタ。大分皆潰れ始めたし、船に戻ってもう寝ちまおうぜ」
 隊長たちの背中を見送りながら、エースはつまらなそうに酒を煽った。
「エースは女連れてかなくていいの?」
「いーよ、今日はそんな気分じゃねェ」
 ハルタは、我儘な子供のような、なんとも言えない表情のエースを横目に伺って、大方、兄貴分たちが女を優先して早々に退席したことに拗ねているのだろうと検討をつけた。
 二人は席を立ちモビーディックへと歩みを進めた。


 酒場から距離のある北西の港は、北東から半円を描くように作られており、直進で突っ切るよりも浜に沿って歩く方が幾らか早かった。「丁度いい、酔覚ましに夜の散歩だ!」等と呑気に浜を歩いていた二人は、今回ばかりは判断を誤っていたと、後々になって語るであろう。幾ら時間がかかろうとも、森を直進していれば良かったと。
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