第1章 21時の邂逅
宵に賑わう街中をひた走る女がひとり。
「イヤ〜〜!何なんだコイツら!」
息を切らせながらひとり言を叫ぶ。
「ちょっと、ちょっと、まって!何でわたしこの島いるンだっけ?アレ?どうやって来た?いま何時だァ!?」
大混乱を極めながら爆走するこの女の5m程後方には、如何にもガラの悪い男数名が怒声を上げながら、こちらもまた、疾走していた。
この街で、この女の名を知る者はいない。恐らく、彼女自身も既に忘れ去っていることだろう。長い四肢を惜しげもなく晒し、茶色の瞳は風に煽られ潤んでいる。“ヒューマンショップ”にでも連れて行ったら高く付きそうな、見事なブロンドヘアを結い上げたツインテールは、まるで尻尾のように暴れまわった。
つまりはそういうことなのである。男たちは、いま、彼女を1番BGへ誘(いざな)おうとしていた。もっとも、誘(いざな)う等と生易しい現場には全くもって見えないのであるが。
女を筆頭に、攻防戦を繰り広げる街内マラソンご一行は、遂に、北東の港へ辿り着いた。
「もう逃げられねェぜメスガキが!」
「手間ァかけさせやがって…!」
「イカサマはいけねえよな、きっちり身体で詫び入れて貰うぜ!!」
拳銃やサーベル、さらには爆薬までもをチラつかせて、汚い言葉と物理で追い詰める男たち。どうやら彼女は男たち相手に何やらやらかしたらしかった。
「うるせェ!誰だテメェ!なんの話してんだよ」
こちらはこちらで、可愛い声で汚い言葉遣い。わざとか否か、シラをきるつもりか、絶妙に噛み合わない会話が静寂の海に響く。
「オイ、お前ら何やってンだ?」
そうこうしているうちに、第三者の介入を許してしまったのは男たちの痛恨のミスだった。間を空けず女が叫ぶ。
「や〜ん、タスケテ〜!襲われてるの〜!」
先程までの剣幕は何処へやら。猫かぶりもいいところな甘ったれた声で助けを求める。
「おいおい、あまり騒ぎにはしないでよ」
「ちっと燃やすだけだ」
緑色のブラウスの少年は、オレンジ色のテンガロンハットの青年を諌めるが、分かってるいるのかいないのか、挑発的な表情で人さらいの男集団を見据えていた。
女は、今がチャンス!とばかりに逃げようと、ひっそり足を踏み出した。その時。
「アッ!」
「「「あ」」」
ドボンと質量のある音と共に、たちまち水飛沫が飛ぶ。