第25章 王都の舞踏会
空が白む。
東の空に輝く明け星が、朝の白にのまれていく。
刻々と変化する宙の色を見上げていれば、想いがふくらむ。
“いつかマヤと一緒に眺めてぇ、朝の空を。一緒にこの白い空気を吸って、それから…”
それから… の先は言葉ではなく映像でリヴァイの心に浮かんできた。
マヤがその潤んだ琥珀色の瞳を空の白から、自身の青灰色の瞳に向けてくる。琥珀と青灰が溶け合おうとするみたいに近づく。
………!
そこまで夢想してリヴァイは、はっとする。
……なんだ、今の。
それは明確なビジョン。
リヴァイは無意識ではあるが、自己の願望を反映させた来たるべき理想の未来を脳内に描いていた。
自分で心に浮かべておいて、マヤの瞳の色にドクンと心臓が跳ねる。
ただ空を、一緒に眺めたいと願っただけなのに苦しくなってしまう胸の鼓動。
リヴァイが眉間に皺を寄せて、鎮めようとしたそのとき。
人の気配がした。
鳶色(とびいろ)の髪が見える。
しばらくすればオルオもやってきて、二人はすぐにリヴァイのいる枝の下に飛んできた。
ある程度の距離があるので気づかれる心配はないが、本能的に息をひそめる。
………?
なかなか飛ばない。
……どうした? いつもの追いかけっこはしねぇのか?
下の枝に意識を向けると、ぼそぼそと話し声がする。
断片的に流れてくる単語は、ペトラとか貴族とか。
興奮しているオルオの大きな声ばかり聞こえてくる。
……王都の舞踏会の話か…。
マヤのあの愛らしい声がよく聞こえない。
……チッ、オルオ… 少しは黙れよ。マヤの声が聞こえねぇじゃないか。そんなだからお前は舌ばっかり噛むんだ。
次に耳に入ってきた単語は、兵長とかデートとか。
……俺とマヤの話?
耳をそばだてる。
………。
どうやらマヤは、一昨日に俺が “執務の礼” にかこつけて出かけたことを “デート” かどうか気にしているらしい。
……そうか…。次はデートだと言った方がいいのかよ…。
それはなかなかの困難な任務だな…。