第29章 カモミールの庭で
リヴァイの不機嫌もモブリットの嘆きもどこ吹く風のハンジは、マヤに笑いかける。
「見てのとおりリヴァイは、マヤの全く悪気のないレイさん連発で機嫌を悪くしちゃうようなどうしようもない男だからさ、マヤは少~しだけ気をつけてリヴァイの前ではレイモンド卿とか、とにかく誰でも他の男の名は出さない方が身のためだね! ホント苦労するよね、こういう男を好きになっちゃうと…。でもさぁ、よく考えたらマヤもなんでリヴァイなんかとひっついちゃったんだい? こんな可愛いマヤにはもったいないじゃないか。いくら人類最強とはいえチビで嫉妬深くて異常なまでの潔癖症でケチで…、おっとケチはミケだった! リヴァイは残念ながらケチではない。強いて言えば年中不機嫌で愛想笑いのひとつもできないのが玉にきず…」
ぺらぺらと思いつく限りのリヴァイの悪口を並べ立てているハンジに、リヴァイとマヤ両方の堪忍袋の緒が切れた。
「おい、いい加減にしやがれ!」
「兵長はそんなんじゃないです!」
「お~お! 二人同時に気の合うことだねぇ! ときにマヤ、“そんなんじゃない” とは?」
「兵長はチビじゃないし、嫉妬深い…? のはよくわからないけど、潔癖症でも不機嫌でもない…」
……あれ?
言っていてマヤは疑問符が浮かぶ。
兵長は潔癖症だし、不機嫌なことが多い… のでは…?
疑問符が頭にちらついて言葉の勢いが失われてしまう。
「うん、まぁそうだね! リヴァイはチビじゃないね、もっとチビのマヤから見れば。でもあとは全部当てはまるけどマヤさえ良ければそれでいいんだから、まぁいっか!? 君たちお似合いだよ。末永く仲良くやってくれ」
「一体なんなんだ、お前は…」
かなり気分を害していたリヴァイも、最終的には仲良くやれと言われてしまうと悪い気はしないらしい。照れてしまってまんざらでもない。
「マヤもいいね? リヴァイと仲良く!」
ハンジの勢いに押されてうなずくしかない。
「は、はい!」
「よしっ! じゃあ早速私とモブリットにも教えてくれないか。紅茶商と貴婦人の再会ムフフ話を…!」
こうして乱入してきたハンジによって気まずかった空気もすっかり吹き飛び、談話室の夜はゆっくりと熟成していくのであった。