第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
ナナバが先ほどまで部屋で筋トレをしていたと聞いて、マヤは素直に疑問に思ったことを訊いた。
「前にニファさんが言っていたけど、ナナバさんはいつも壁外調査の前日は夜遅くまでずっと、部屋で筋トレをしているんですよね? 今日はどうしてもうお風呂に? 早くないですか?」
「あぁ、そうだね…」
ナナバはそのことかといった雰囲気で困ったような笑みを浮かべた。
「壁外調査の前日はマヤが言ったように心身ともに整えたい。だから午後は丸々筋トレをしていたし、夕食後も仕上げのつもりで励んだよ。それで…、思いきり気持ちのいい汗をかいて風呂に行くと問題が発生するんだよね…」
ポンポンと歯切れよく話すナナバなのに、急に勢いが減退していく。
「………? 問題って?」
「あまり大きな声で言いたくないんだけど…」
ちらりと離れた場所で湯につかっている同僚の方を見やる。そして少し声を落とした。
「何度か告白されてさ…」
「……はぁ…」
意味がわからないマヤは中途半端な相槌を打った。
その不思議顔を見て、ナナバは仕方なく補足に入る。
「……だから、ここで私に愛の告白をしてくる子がいるんだよ…」
「あぁ、愛の告白ですか。なるほど…、え? 愛の告白? ここで!?」
意味がわかった途端に驚いてしまって真ん丸に目を見開いた。
「ここ、お風呂だから女の子しかいませんよね? 女の子がナナバさんに?」
「あぁ、そうなんだよ。恥ずかしながら男には全然もてないけど、女にはちょくちょくね…」
「わかります! 私もナナバさんのこと大好きですもの。かっこいいです! それから男の人もナナバさんのことを好きな人は、いっぱいいると思いますよ!」
「いないいない」
ぶんぶんと両手を顔の前で振って全否定してから。
「まぁだから面倒でね、早めに筋トレはやめて人の少ないこの時間帯に風呂に入ることにしたんだ」