第27章 翔ぶ
「それは…、マヤもいつまでもイレギュラーな毎日を送るのは鬱陶しいでしょ? だから早くレイさんがプロポーズでもなんでもして任務が完了すればいいかな~って。そうしたらマヤも日常生活に戻れるし、変な噂だって…、あっ!」
マヤを傷つけないために噂話にはふれないつもりが、話の流れでつい口にしてしまった。
ペトラは “しまった” と青ざめる。
「……噂?」
きょとんとした様子でおうむ返しをしたマヤは、次の瞬間には笑い飛ばした。
「そうなの、噂! さっきマーゴさんにも噂は本当かって訊かれた。ペトラの耳にも入ってるんだね。本当に嫌になっちゃう」
マヤの様子から、そんなに深刻に悩んでいる様子はなさそうで、ペトラは胸を撫で下ろした。
……もしかしたら兵長からレイさんに乗り換えたっていう噂は知らないのかも?
それとなく、探りを入れてみる。
「ね~! みんな好き勝手に噂してね。プロポーズしたとかしないとか先走ってるしね」
「そうそう、全然そんな雰囲気なんかないのにね。プロポーズだけじゃないよ、私が兵団をやめるって噂もあるの」
「そうなんだ。それはひどいね! ……他には…?」
ペトラはドキドキしながらマヤの顔色をうかがう。
「えっとね…、プレゼントを山ほどもらってるとか。花束しかもらってないのにね。あぁ、そうそう… レイさんには “白薔薇王子” なんてあだ名がついてるみたい。ぴったりだね、ふふ」
楽しそうに笑っているマヤを見て、心から安心する。
……乗り換えたの噂は知らないみたい。良かった…。
「ホントだよね。レイさんは白薔薇王子、それでいけばアトラスさんは赤薔薇王子だね!」
「あはは、そうだね。それ…、今度レイさんに言おうかな。白薔薇王子って呼ばれてますよ、アトラスさんは赤薔薇王子ですねって」
「うん、いいんじゃない?」
マヤとペトラは白薔薇王子赤薔薇王子でひとしきり盛り上がったあとで、互いに顔を見て笑った。
「ペトラ、ありがとう」
「ん? 何が?」
「なんか自分でもわからないけど、ペトラとおしゃべりして、笑ってたら…、すごく楽しいし、どんどん気持ちが軽くなっていく感じがするの」