第27章 翔ぶ
「……何? 未来?」
マヤのつぶやきをペトラが訊き返す。
「うん。団長に言われたの。未来は不確定だから、レイさんがプロポーズしてくるとは限らないってね。その言葉どおりに、レイさんはこの一週間私と一緒にいて、プロポーズする気持ちが冷めちゃったのかも」
「え~? そうかな? たった一週間で冷めるなんてある?」
疑わしそうに眉間に皺を寄せるペトラに反論した。
「だってさっきペトラが言ったじゃない。一週間も一緒にいたら充分だって。プロポーズするくらい気持ちが熱くなるのも、冷めるのも、同じことよ」
「うっ…」
言質を取られて言葉に詰まってしまったペトラにマヤは訊く。
「ねぇ、どうしてさっき… あんなに怒ってたの?」
マヤは不思議だったのだ。
“なんでさっさとプロポーズしてこないの!” と苛立った様子で叫んだペトラが。
「それは…」
ペトラは少し言いよどむ。
この一週間、マヤとレイに関する噂話を何度か耳にした。
その中にはリヴァイに心を寄せる新兵が “一時期は兵長と一緒にいたくせに、貴族に乗り換えて毎日遊んでいる” などと無責任なものがあった。
……マヤだって好きで出かけている訳じゃない! 任務だし! 大体、乗り換えてないから!
よっぽど文句を言おうと思ったが、マヤのためを想って我慢した。
時が過ぎて、レイのプロポーズをマヤが断って、レイが王都に帰って任務が終了すれば、噂をしていた者たちも反省するだろう。
いかに自分たちが見当はずれなデマを流していたかを。
だから、さっさとレイにプロポーズしてほしかった。大事なマヤが好奇の目にさらされ、勝手な噂話のネタにされるのは、もうごめんだ。
そんな想いから、ペトラは怒っていたのだ。
内包された怒りの原因をマヤに伝えるのは、マヤを傷つけることになりはしないか。
兵長から貴族に乗り換えたなんてひどい噂を、マヤの耳には入れたくない。
ペトラは目の前で首をかしげて自身の返答を待っている親友の、澄んだ琥珀色の瞳を曇らせたくないと強く思った。