第27章 翔ぶ
そんな根も葉もない噂が耳に入るたびに、マヤはふうっとため息をつく。
……まだプロポーズはされてないんだけどなぁ…。
いや、されたけど。
でもレイさんがこっちに来てからはされてないから、されてないんだよね…?
自分でも訳がわからなくなりながらも、できるだけ目立たないように隅の席に座り、静かに朝食をいただく。
食堂には調整日であろう数人の兵士がいたが、たまたま男性ばかりだ。
もっとも噂話に熱心なのは、女性の新兵だ。
今の食堂に彼女たちがいないことは、マヤにつかの間の安堵と休息を与えた。
……ん、美味しい。
食べ慣れたいつもの食堂の味だけれども、やはり美味しいとマヤが芋のサラダを噛みしめていると。
のしのしと近づいてきた人物がひとり。
その気配にマヤが顔を上げると、マーゴが腰に手を当てて立っていた。
「マーゴさん…!」
「マヤ、どうだい? 調子は」
マヤは持っていたフォークを丁寧に置いてから、返事をした。
「……大丈夫です」
自分でも何が大丈夫なのか、よくわかっていないが。
「そうかい、安心したよ。噂で聞いたんだけどね、ほら、あの白薔薇王子とか騒がれてる貴族のボンボンと毎日遊び歩いているそうじゃないか」
……遊び歩いているつもりはないんだけど…。
任務だから仕方なくであっても、はたから見れば、やっていることは確かに誰が見ても “遊び歩いている” 状態だ。
黙っているマヤに、マーゴは悪びれる様子もなく話をつづけた。
「噂なんてものは尾ひれがつきまくるものだから。あんたがプロポーズされて調査兵をやめるって話まであるじゃないか。さすがにあたしはそれは信じてないけどね! 実際のところはどうなんだい?」
舞踏会の夜にプロポーズされてはいるのだが、今ここでそのことを持ち出すのは話が複雑になってしまう。
レイが調査兵団に顔を出すようになってからあとの話でいいだろうとマヤは判断して、答えた。
「どうも何も…。プロポーズはされていません」