第27章 翔ぶ
レイとマヤが、トロスト区で一番のレストランで食事をしてから一週間が経った。
かねてから予定していた調整日のマヤは、いつもより少し遅めに朝の食堂に向かった。
気心の知れたメンバーには会わなかった。だが… すれ違う人の皆が、好奇の目で見ている気がしてならない。
レイが調査兵団の兵舎に突然現れて、訓練を見学したのちにマヤをトロスト区に連れ出すようになってから一週間。
トロスト区はヘルネと違って遠い。
したがって午後の訓練の第二部の時間… 15時半を過ぎたあたりからトロスト区に出向いて、そこからマヤが帰舎するのは毎日夜遅くになってしまっていた。
そしてその行動パターンは、いまや調査兵全員に知れ渡っているのだ。
意外と近い人間の方が気を遣ってか極力その話題をしないようにしているように見受けられたが、外野の人間はそうは甘くはない。
すれ違う廊下で、食堂で、大浴場で…。
幾度となく噂を耳にしてきた。
最初は軽いものだった。
“聞いた? 王都から貴族がマヤさんを追いかけて来たんだって!”
“聞いた聞いた! 全身真っ白の貴族の王子様!”
から始まって、数日が過ぎるころには。
“さっき王子とすれ違ったんだけど、なんか薔薇の匂いがした!”
“馬車にも薔薇の紋章が彫ってあったよ!”
“じゃあ白薔薇王子だね!”
と、いつしかレイの呼び名は王子様から白薔薇王子になり。
“マヤさん、両手いっぱいにプレゼントを抱えて帰ってきたんだって!”
“なんでも白薔薇王子のプロポーズは、秒読みらしいよ?”
“え? 私はもうプロポーズしてマヤさんの返事待ちって聞いたけど?”
“違うって! プロポーズをOKして、兵団をやめるってさ”
などと話は、あることないこと勝手にどんどん大きくなっていった。