第27章 翔ぶ
沈んだマヤの顔を見て、ペトラの表情も曇った。
「任務の最終目標がプロポーズの承諾だとしたら、ちょっとそれはキツイものがあるよね…」
「うん…。ペトラ、私ね…」
マヤは今の気持ちのすべてを打ち明けるつもりだ。
「舞踏会に出席する任務のときは、それなりに楽しめたの。やっぱり王都に行くのはドキドキするし、用意してもらったドレスや宝石はお姫様になったみたいで気分が上がるわ。それにペトラもオルオもいたし、ただレイさんと楽しい会話をしたり、美味しいごはんを食べたり…。それだけだった。任務が資金集めだと理解してはいても、実際にあの豪華なお屋敷で夢のような時間を過ごせば、任務だってことは忘れるくらいで…」
「だよね~。私もご馳走をひとくち食べるごとに任務のことが頭から抜けていったわ」
ペトラのお茶目な発言で、緊張しているマヤの肩の力が抜ける。
「……確かに、ものすごく美味しかったからね」
「そうそう、あんな任務なら大歓迎! ……ただし変態貴族からのお誘いは今後一切なしでお願い!」
「あはは」
良い感じにリラックスしたマヤの笑いがやわらかい。声も軽くなった。
「レイさんのプロポーズを承諾することが今回の任務の最終目標なら、いい加減な気持ちで引き受けられない。私…、明日の朝一番で団長のところに行くよ。そしてちゃんと報告する、舞踏会の夜にレイさんにプロポーズをされたこと、断ったこと… 全部。そしてあらためて指示を仰ぐよ」
進むべき方向が明確になって、先ほどまで暗く沈んでいた表情も明るい。
「それがいいね!」
同意するペトラの顔も輝いて、声も弾んでいる。
「いくら資金集めが大事な任務だからって、さすがの団長もマヤに、プロポーズを承諾しろなんて命令はしないと思うし。きっとレイさんを上手に追い払ってくれるよ!」
「うん!」
「なんか一時はどうしようかと思ったけど、すっきりしたね。お風呂に行かない?」
「了解。じゃあ用意してくるね、待ってて」
マヤはすっと立ち上がると、入浴セットを取りに自室に向かった。
その後連れ立って大浴場に行った二人は、汗と一緒に今回の任務の心配事を、熱い湯ですっかり流した気になった。