第27章 翔ぶ
「これで兵舎の案内は終わりです。次はどうしますか? 訓練場はさっき来られたから、厩舎を見ますか?」
「馬か…、壁外を走る馬だな。見せてくれ」
「わかりました。こちらです」
団長室を出たあとすぐに、幹部棟の三階と二階に関しては口頭で説明をした。三階は幹部の私室、二階は団長室、執務室、会議室があると。特に三階はプライベートな私室であるため、階段を上がることすらしなかった。そうして一階に下り廊下を歩きながら応接室、来賓室、事務室をひととおり案内し、玄関ホールを出て一般棟へ。
コの字型になっている一般棟の中庭に立ち、両サイドにあるのは男子と女子の居室棟だと説明。その二つをつないでいる中央の棟に入ってからは。三階から順に図書室、資料室。二階の医務室、リネン室、備品室、技工室。最後に一階の食堂と談話室。すべてを事務的に、感情をこめずに、淡々と説明してまわった。
食堂に入ったときには、マヤとレイの気配に厨房にいたジムが出てきて、何か言いたげにこちらを睨んでいたが、マヤは軽く頭だけを下げて出てきた。
「さっきの食堂の男も…、調査兵なのか?」
厩舎への道を行きながら、レイが訊く。
「ジムさんは料理人です。食堂には四人の料理人の方が勤めています」
抑揚のない声で答えるマヤ。
「へぇ…。医務室にも医者がいるだろうし、結構兵士じゃない人もいるんだな」
「そうですね。今から行く厩舎にも馬のお世話をしてくださる方がいますよ」
ヘングスト爺さんやその愛弟子のサムとフィルの二人の顔が浮かんできて、マヤの声が少しやわらかくなった。
「……そうか。会えればいいな」
すぐにマヤの様子の若干の変化に気づいたレイは、厩舎へ期待をふくらませた。
……厩舎に行ったら、マヤの機嫌も直るんじゃねぇか?
そんな淡い期待を抱いて、道を急ぐ。
しばらく二人の足音だけがしていたが、そのうちに馬のいななき、馬の匂い、馬の気配が近づいてきた。
そして道が分かれている。
マヤは分岐点に立つと、左へそれる道を指さした。
「こちらの道を行けば格納庫があります」