第27章 翔ぶ
休憩の時間にリヴァイが来るだけで嬉しそうにしているマヤ。執務の時間が終われば、いそいそとリヴァイの執務室へ急ぐマヤ。王都の居酒屋へ連れていってもらう約束をしたと笑顔だったマヤ。
そんな初々しい想いにあふれた様子を、ずっと見てきたんだ。
たとえ上からの命令で、王都からわざわざやってきたレイモンド卿と何日一緒に過ごそうとも、マヤの心が揺らぐはずもない。
……今回ばかりはエルヴィンの読みは外れだ。
ミケが内心でそう思っていると、エルヴィンの声が流れてきた。それはどこか楽しんでいるような調子を帯びて。
「可能性があると言っただけだ。状況次第では十分にあり得るからな。マヤは身も心も調査兵だ。だからこそ選択する未来がある」
「……調査兵だからこそ?」
ミケにはエルヴィンの言葉の真意が掴めない。
「あぁ、そうだ」
“そのうちわかるさ” とでも言いたげに涼しく笑って、机上の書類に手をかけた。
気難しげな顔をしてミケとエルヴィンの会話に耳を澄ましていたリヴァイだったが、エルヴィンがこれ以上は何も話そうとはしない気配を察して黙って退室した。
その去り際の後ろ姿がどことなく、いつもより一層小さく見えて。
思わずエルヴィンはつぶやいた。
「さぁ、大いなる試練の始まりといったところか…」
「なんか言ったか?」
聞き取れなかったミケの声にも、すっとぼけて。
「いや…。みんな帰ったぞ? お前も帰って仕事しろ」
「了解」
最後まで残っていたミケも出ていき、団長室は一気に広くなったような感覚にとらわれる。
……さて、どうなることやら。
マヤの決断、そして何よりリヴァイの決断がきっと… いや必ず、重要な結果をもたらす。
エルヴィンは一週間後か二週間後か、はたまた一か月後か…。来たるべき未来はマヤにとって、リヴァイにとって、そして調査兵団にとって、どのような姿を見せるのだろうかと想いを馳せた。