第27章 翔ぶ
「そうか。ではお前の言う “向こうからやってくるそのとき” まで、知らぬ顔をしておけばいいのだな?」
「あぁ。そのときが来なくても何があったのかは、あらかた想像はついているがな…。ミケ、お前だってわかっているだろう?」
エルヴィンに訊かれて、ミケは慎重に答える。
「まぁ、そうだな…。レイモンド卿の目的はマヤだった。どこまで本気なのかは知らないが、マヤに好意を持っているのは間違いない。なにしろエルヴィンとリヴァイを招待してこなかったくらいだ」
そこまではミケもわかっているのだ。
というか、リヴァイだってレイモンド卿からの舞踏会の招待状が届いた段階でわかっていたはず。しかし別に王都に行く前までは、態度に変化はなかった。
……ではやはり、エルヴィンの言うとおりに王都で何かが起こったことによって、リヴァイのマヤに対する態度が変わってしまったのか。何が起こったのだろうか?
ミケには想像もつかなかった。
もしレイモンド卿がマヤに何かしら愛の告白のようなものをしたとして、それをリヴァイが知ったとしても。
リヴァイがマヤを突き放す理由には到底ならない。逆に放さないように努めるはずだ。
……一体、王都でリヴァイとマヤとレイモンド卿に何が?
思案顔のミケを興味深く眺めていたエルヴィンだったが、
「そのうちわかる」
とつぶやくと、愛用している黒檀の万年筆のキャップをくるくると回して開けた。
それは執務を続行するという暗黙のサインだ。
ミケは “邪魔したな” と団長室を出ていった。
「……分隊長?」
エルヴィンとのやり取りを思い出していたミケは、自身を呼ぶマヤの声に気づくのが遅れた。
「分隊長、どうされましたか?」
「いや、すまない。ちょっと考え事をしていた…」
「ふふ、またいつもの “頭の体操” ですか?」
その言葉を聞いてミケが顔を上げると、マヤが自然に笑っている。
乾いていない、張りついてもいない、心からの笑顔だった。