第26章 翡翠の誘惑
「うん…。でもね、さっき兵長と踊ってたときにはつけてたの。だから廊下に落ちてると思う。捜してくるから、ペトラを見ておいてくれる?」
「了解、任せとけよ」
こぶしでドンと胸を叩くオルオ。
「ありがとう。じゃあ行ってくる」
“ファビュラス” の部屋を出ると、マヤは下を向いて捜し始めた。
廊下に人影はない。
遠くの広間から漏れ出る舞踏会の調べが、かすかに聞こえてくる。
……お願い、出てきて…!
そう強く念じながら、廊下の隅から隅まで丹念に捜していく。
しばらくのあいだ一心不乱に捜しながら歩みを進めたが、耳飾りは落ちていなかった。
長い廊下は捜し尽くして、もう曲がり角まで来ている。この角を曲がれば、広間から一番近い共用の便所がある廊下になる。
マヤが角を曲がろうとしたそのとき、場にそぐわない音が聞こえた。
「……ミャオ」
「………!」
驚いて振り返ると、長い廊下のはるか先に何かいる。
「……ミャオ」
その音… いや鳴き声は。
「猫ちゃん? えっ、猫ちゃんがどうしてお屋敷に? 本当に猫ちゃんなの?」
びっくりしたマヤは猫ちゃん猫ちゃんと言いながら、ふらふらと猫に向かって前進している。
一歩一歩近づくにつれ、その猫の様子がわかってきた。
窓から射しこむ月光に浮かび上がったその猫は、全身が真っ白だった。
「猫ちゃん? どうしたの? 迷子なの?」
猫を驚かさないように、ゆっくりと近づきながら優しい声で話しかけてくるマヤを、じっと見つめる瞳の色は鮮やかなグリーンだ。
そしてどうやら飼い猫らしい。首輪をしている。
その首輪には赤や緑のキラキラと光を放つ宝石が散りばめられていた。
「……あぁぁっ!」
猫の瞳が美しいグリーン、あたかも翡翠のような緑色だと気づく距離まで近づいたとき、マヤは再び驚きの声を上げた。
「猫ちゃん、それ…!」
白猫が何かを咥えている。
それは月の光を受けて輝く白く長い毛並み、緑色の瞳、そして宝石が散りばめられた首輪に負けないくらいのまばゆい輝きを放っていた。
「アクアマリンの耳飾り!」