第26章 翡翠の誘惑
「……ありがとうございます。私たちのことを心配してくださったんですね」
マヤの琥珀色の瞳が素直に感謝の想いできらめいて。思わずリヴァイはふいと視線を逸らしてしまった。
「まぁな…、そんなところだ」
真実は “マヤ、お前だけが心配だからだ” なのだが、そうは言えないリヴァイ。
だがエルヴィンが用意した、わざとらしい憲兵団本部への書類の使いを王都に出向いた理由にしなかったことは、リヴァイにとってせめてものプライドだ。
マヤだけが… ではなくマヤたち三人が心配だにすり替わってしまったが、心配で王都まで来たという根幹の部分は嘘ではない。
「ナイル師団長は結局のところ遅れて来ることになったし、兵長が舞踏会の最初から一緒にいてくださって心強かったです」
「そうか」
「ええ。だって私たちだけではやっぱり、どうしたらいいかわからないですもの。レイさんがずっと一緒にいてくださるならいいけど、ホストですから案の定、舞踏会が始まってからは全然来てくれません」
マヤの口から聞きたくもない “レイさん” が出てきて、リヴァイは眉間に皺を寄せる。
……それは恐らく俺がいるから… というか違ぇな。公爵だ。公爵が俺とマヤらを抱えこんじまったから、レイモンド卿は近寄れねぇんだろうな…。
そんな予想をしながらも、リヴァイはマヤの頭からレイのことを追い払いたい。
だから何食わぬ顔で話題を変えた。
「マヤ、さっきのあれはなんだ?」
「……はい?」
「ほら…、公爵が “なんでも好きなものをリクエストしろ” と言っただろ…? あのときに何か言いかけたがやめたじゃねぇか」
「あっ、はい…」
マヤはリヴァイがなんのことを言っているのか理解した途端に、顔を赤らめた。