第26章 翡翠の誘惑
広間のダンスフロアに流れているのは “月華のワルツ”。マヤはリヴァイに腰を抱かれて、右手を軽く握られている。上半身はメロディに合わせてくるりと回ったりゆったりと揺らされたり。下半身はワルツのリズムに合わせて単純なステップを繰り返している。
はじめは何をどう動かせばいいのかわからなかったマヤも、しばらくリヴァイに身を任せたことで、なんとなく動きの基本を掴むことができた。
舞曲に合わせて踊っているリヴァイとマヤを見ていたペトラは “仕方ないわね” といった雰囲気を前面に押し出してオルオに声をかけた。
「うちらも踊るわよ!」
「へ?」
「私が踊ってあげないとオルオは相手もいないし、踊れないでしょ! 早くしなさいよ!」
ぐずぐずしているオルオの手を取ると、ペトラはフロアに躍り出た。
「ちょっ、ちょっ! どうやればいいんだ?」
「力を抜いて、私の動きに合わせて! 兵長みたいに腰に手をまわして!」
「おっ、おう…」
ちらりとリヴァイとマヤの方を見たオルオは、赤面しながらペトラの腰に手をまわした。
「あとは適当に動けばいいのよ。足、踏まないでよね! それだけ気をつけて」
「了解」
ぎこちない動きながらも、オルオは必死でペトラに合わせて踊り始めた。
「……あいつらも踊り始めたな」
リヴァイがマヤの耳元でささやく。
「えっ、あぁ… そうですね…」
リヴァイの切れ長の目がペトラとオルオを映しているのが、よく見える。
互いの瞳が映しているものがわかる距離。声が息が、直接耳に侵入してくる近さ。ふれている右手と腰が熱い。
……こんなに近いなんて…。
マヤはふれているところから、トクントクンと速く打つ心臓の音が伝わってしまうのではないかと心配になってくる。
「マヤ…」
「はい…!」
リヴァイと踊っている状況に緊張しているマヤは、名前を呼ばれただけでも、心臓がそのまま口から飛び出してしまう勢いで驚く。
「今なら聞くぞ?」
「……え?」
なんのことだか、マヤにはわからない。
戸惑っている様子のマヤの耳元へ、リヴァイはその薄いくちびるを寄せてくる。
「船着場で言っただろ? “話ならあとで聞いてやる” と…」