第26章 翡翠の誘惑
「……それもそうね」
オルオの明るい声に押されて、マヤは扉に向かって歩き始めた。ペトラとオルオがつづく。
扉にはバルネフェルト家の紋章である白い薔薇が彫られている。
「グロブナー伯爵家の剣に蛇が巻きついている紋章はなんだか怖い感じがしたけど、この薔薇のは綺麗だね」
マヤが言えば、ペトラも。
「そうだね。紋章からしてバルネフェルト公爵家は高貴な感じがするわ。イケメンのレイさんにぴったり!」
「ふふ、ペトラったら!」
紋章の話題で緊張が解けた二人は笑い合う。
「一緒に開けようか」
「いいね!」
「「せ~のっ!」」
ぎぃっと扉を…、大きな観音両開きの右の扉をマヤが、左の扉をペトラが同時に押し開けた。
そこは本館と同じく吹き抜けとなっていた。本館は四階建てだが、この別館は三階建てで大きな窓はステンドグラスになっている。
「見て、ペトラ。ステンドグラスも白い薔薇だわ!」
「ほんとだ。綺麗! あっ、あっちの窓も!」
「壁もよ!」
二人はバルネフェルト家の紋章である白い薔薇が扉やステンドグラス、壁に飾られている壁画にタペストリー、飾り机や椅子… 広い玄関ホールのありとあらゆるものに施されているのを見つけて、きゃあきゃあ騒いでいる。
「にぎやかだな」
コツコツコツと真っ白な大理石の床に足音が響いたかと思うと、レイが現れた。
「「レイさん!」」
白のシャツのラフな格好のレイに、三階までの吹き抜けの大きなステンドグラスから射しこむ午後の光が降りそそぐ。
光はレイの銀髪をまばゆく反射して、あたかもレイの髪そのものが発光しているかのように煌めかせていた。
「……マヤ、レイさんが光り輝いてる…!」
ペトラが小声でささやく。
「……そうだね…」
マヤも全く同じように感じていた。
……美しい白銀の髪が光り輝くレイさんは…、まるで白い薔薇そのものだわ…。