第26章 翡翠の誘惑
「……愚案… ですか?」
どう考えても合点がいかない。
「馬だと機動範囲が広がるのは間違いねぇ。奇行種にも迅速に対応できるだろう。また並走するとなれば壁から離れた場所でも討伐戦力になる可能性は否定できない」
「……だったら!」
「なぜ今、援護班の騎馬が許されていねぇと思う? これまでに誰か、イアンたちみてぇな熱いものを持った駐屯兵か、調査兵の中からでもいい、同じことを思いつくやつが一人もいなかったと信じるのか? ……んな訳ねぇだろうが。誰だって考えたはずだ。でもな、一見優れているように見えて… そうじゃねぇんだよ。だから今、援護班は馬に乗ってねぇ」
リヴァイの放ったひとことひとことを、じっくりと噛みしめて考えてみる。
騎馬によるメリットは幾つもあっても、デメリットが思いつかない。
マヤは喉の奥から絞り出すように、壁外調査出陣における現在の状況を口にするしかできなかった。
「……きっと過去には同じことを思いつく人がいて、援護班の騎乗を試したんでしょうね。でも定着しなかった。それはなぜか…。恐らく…、団長が…。あの長距離索敵陣形を考案したエルヴィン団長が陣頭指揮をとる壁外調査の出陣で、援護班が馬に乗っていないということは、恐らくそれが最善の方法だから… ですよね?」
「そうだ。エルヴィンが採用していない方法だというのは、決定的だな。いい目のつけどころだ」
リヴァイに褒められて嬉しく思うが、肝心のなぜ愚案なのかがわからない。
「騎馬による討伐はメリットしか思いつきません」
マヤは愛馬アルテミスの可愛い顔を思い浮かべながら。
「特に信頼し合った自分の馬なら、以心伝心でどう動けばいいのか馬に伝わるから、なんのストレスもなく戦えるわ…」
やはりデメリットなど考えられない。