第26章 翡翠の誘惑
「えっ」
リヴァイと行くことなど全く念頭になかったマヤは二の句が継げない。
「そんなに驚くこともないだろう。先週デートしたばかりのくせに」
「………」
ミケにまで “デート” とはっきり言葉にされて、赤面してしまう。
「このあいだここでリヴァイが、執務の礼にマヤをヘルネに連れていくと言っていたかと思えば、その次の日には団長室でハンジが、デートデートと騒ぎ立てたからな。ゆっくりとデートはどうだったのか訊きたかったのに、舞踏会に招待されたから結局何も訊けずじまいだ。どうだ? デートは楽しかったのか? リヴァイに美味いものをおごってもらったか?」
「はい。兵長の行きつけの紅茶専門店と “荒馬と女” に連れていってもらいました」
「あぁ、“荒馬と女” は何を頼んでも美味いだろ?」
「ええ、とっても美味しかったです。兵長の行きつけだなんて聞いたら、お酒メインなのかなって思ったけど、お料理も野菜とかすごく新鮮で美味しかったです!」
マヤは太陽のように真っ赤に熟れた完熟トマトを思い出しながら笑顔になった。
「あそこは野菜も美味いし卵もな…、オムレツとか結構いけるぞ?」
「あっ、そうですね。チーズオムレツが出てきたけど、ふわふわで美味しかった…」
ふと気づく。
「もしかして分隊長、卵がお好きですか?」
ミケはホロホロ鳥の燻製卵 “くんたま” が好きでオムレツも好き。
「そうだな…。卵は好きだ」
「美味しいし栄養もありますものね。私も好きです」
「……祖母がな、卵料理が得意だったんだ」
「お婆様?」
「俺は両親を早くに亡くしていてな。祖母に育てられた」
「……そうだったんですか」
初めて聞くミケの家族の話…、それも早世とのこと。マヤはどう反応していいかわからず、ぎこちない態度になってしまう。