第1章 『その呼び方は尊敬と… 』
【独】
何故こうなったんだ
そうだ、終電逃してネカフェ探してた時に偶然会ったんだ…
リーマンじゃねーか!なんて声かけられて
見たらシブヤディビジョンのギャンブラー…確か有栖川…だっけ?で
親しくもないのに肩組まれて
何してんだって声かけられた
終電逃したんだよって不機嫌に答えればあっちはケラケラ笑う
こっちは明日も朝から仕事なのに
ネカフェ探すからじゃあなって声かけたはずなのに
ネカフェよりいい場所あるぜって引っ張られ
着いた先は寂れたラブホ
「はあ?お前馬鹿なのか?」
「バカってなんだよ。ベッドあってシャワーあってネカフェより安い穴場に連れてきてやったんだぞ。」
「だからって男2人でラブホなんて…」
疑いの目で見ていれば、有栖川はぽかんとした顔で俺を見たあと笑った。
「おまっ!リーマンマジか!
たしかにラブホは男と女がセックスするためのもんかも知れねえけどさ、別に終電逃したりビジホの予約取れなかった奴が1人でも利用できるんだよ。
そんなことも知らねーの?オッサン。」
さも常識のような発言。
俺を馬鹿にしたような言い方にカチンときたけれど、怒っても無駄だと自分をなだめる。
「…ンなのわかってるよ。」
「へえ?行ったことねえのかと思ったわ。」
にやり。
嫌味のように笑う口元。
だめだだめだ。
こんなクソジャリの言葉にイライラするな。
さっさとホテルに入ってシャワー浴びてスマホの充電しながら寝て明日に備える。
明日も仕事なんだから。
「お前もさっさとどっかいけよ、えーっと…有栖川くん。」
「え?一緒に泊めてくれねえの?」
「当たり前だろう!」
ちぇーケチーなんて言われても敵と枕を共にするなんて…
そんなふうに思いながら1人ホテルに入ろうとすれば、地面を汚す雫…もとい雨。
「うわ…マジか。」
有栖川は振り出した雨に舌打ちをし、泊まるところの算段をつけるためにぶつぶつと独り言を話し始める。
目の前に泊まるところがあるのに他の場所に行く算段なんてかわいそうだな。
きっと俺はお人好しなんだろう。
こんなギャンブル狂のクソガキなんて放っておけばいいのに。
「なあ…有栖川くん。」
「なんだよリーマン。」
「穴場、教えてもらったお礼に…一緒に来るか?」
俺は野良猫みたいなこいつを放っておけなかった。