ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
飛行機に乗せられてからは、心が休まる暇がなかった。
肩に腕を回しピタリと体を寄せてくるオーサーに私の体はかたくなって、今度は何を言われるのかずっと怖くて仕方がなかった。…だが、ついに飛行機を降りるまでの間、彼が言葉を発することはなかった。
豪華な装飾の部屋へ案内され、ソファに座る。
そこにいたのは李王龍だった。
「ご足労でした、ミスター・オーサー。長旅でお疲れでしょう、じきムシュウ・ゴルツィネからの迎えも着くはずです。それまでこちらでご休息を」
「………」
「ショーター・ウォン、きみも色々ご苦労だったな…2人ともちょっときたまえ」
そう言って王龍は華龍とユーシスさんを連れてどこかへ行ってしまった。
微動だにせずこちらを見張る男たちをチラリとみて、オーサーは口を開いた。
「お前ら中国人てのは、何をかんがえてるのかわからねえな」
「一緒にするな!こんなヤツらと!」
「…まあいい、油断がならないのはお互い様だからな」
「おいオーサー、お前いい加減にユウコから手を離せよ」
「ふん…、お前が言うか」
「この状況をアッシュが知ったら、ただじゃすまされねえぜ」
「馬鹿馬鹿しい…こいつはアッシュのもんでもなんでもねえだろ」
「お前のものでもねえよ」
「…チッ、うるせえな…まあ、そうなるのも時間の問題さ」
私の頬を撫でながらそういうオーサーから顔を背けると鼻で笑われる。
なるわけない、オーサーのものになんて…!
きっと、逃げ出すチャンスがくる…
この状況を打破するチャンスが、必ず。
その時まで下手に刺激せず耐えるんだ。
ショーターに凭れ、眠らされるエイジを見ながら唇を噛んだ。