ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
《ショーターside》
「アッシュ・リンクスはそのスケープ・ゴート」
「それで…エイジを囮にしてあいつをおびき出そうってのか…」
「やっとわかったか、にぶいね。兄はあんたを気に入って将来は重く用いるつもりらしいけど、どうやらそれは買いかぶりのようだ」
「きさま…!!!」
俺はナイフを取り出し刃先をヤツに向ける。
「…へえ?僕を殺すつもり?そんなことをして、ニューヨークにいるあんたの姉さんがどうなると思う?」
「!!」
「……ほうらごらん、李家の子息たる僕に手をかけ兄の命令にそむくことは、同胞を裏切るということ…あんたの姉さんだって無事ではいられない」
「…っ」
「あんたは姉を見捨てられない、ね?ショーター…両親の死んだあと、あんたの母親がわりとして育ててくれた人でしょう?」
俺は振りかざしていたナイフを勢いよく下ろした。
ザクッ
そのナイフはヤツの黒髪をソファに縫い付けた。
「っ…」
「俺は、お前たちを…李一族を尊敬していた…親父もおふくろも、みんな口癖のように言っていた…我々が無事に暮らしていけるのは李家のおかげだと…異国の地で、根を張って…ここまでやってこれたのは、みな李一族が導いてくれたからだと。彼らが自分たちの代わりに血を流し、矢面に立ってくれたのだ…と。だから李一族にどんな黒いウワサが出ようと、1度として疑ったことはなかった…」
「……」
「だが、今は違う!きさまらも同じだ…!あのディノ・ゴルツィネやほかのマフィアどもと!人の生き血を吸うウジムシだ!!…きさまをエイジに似てると初め思ったが、とんでもねえ話だ…あいつときさまじゃ月とスッポン……なんて言ったらスッポンが気を悪くする!……毒ヘビめ!!」
俺は流れ出る涙を拭うこともせずに部屋を出た。