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ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH

第13章 地獄の中へ


シャワーを浴び終えて、いつものように食事を挟んでベッドに座る。いつからか半分ずつではなく一人に一食ずつ支給されるようになった。
恐怖に支配される生活にも体は慣れてしまったのか、食事を拒否するようなことはなくなっていた。私は単純に量が多くて残してしまう。


『アスラン、まだ食べられる?』

「もうおなかいっぱいなの?」

『うん、今日も多かった…』

「じゃあもらう、ありがとう」

『ううん、こっちこそ!』

パンを頬張るアスランは、少し大きめのシャツとズボンを身につけていた。ズボンの裾は数回折られている。最初は私と同じものを着ていたけど、裾が足りなくなってある時からはひと回り大きいサイズが置かれるようになった。

私の身長は少しだけ伸びたかなというくらい。2年前の私たちは同じような背丈だったはずなのにな。

食べ終わって食器をいつもの場所に置き、隣に座ると静かにアスランが話し始めた。


「ねえ、僕気がついたんだけど、」

『なに?』

「もう夏だよね」

そう言われ窓の外を眺めるが日が落ちていてよく分からない。それにこの窓があるのは通りの裏側、見えるのは隣の建物の壁だけで人はおろか車すら見えない。

ベッドの下に毛布があって凍えるように寒い時期は掛けていたけど、それでもずっと室内にいるのでそこまで明確な変化はなかった。

『…そう、なの?』

「うん、昼の陽射しが少し前より強かった。ここに来た時くらいの感じかな?」

『すごい、私全然気づかなかった…ってことはけっこう経つんだね…』


「そうだね…、色々あったけど全部忘れたいよ。」



『…えっ?』



「え?なに?」



『う、ううん…』



「…あっ、…あぁ」

アスランは一瞬ハッとして納得したように微笑んだ。



「…ユウコとのことは忘れないよ?」



アスランには私の言いたいことがすぐにわかってしまう。


『…ふふ、よかった。』




「それに今日の、一生忘れない!」



『なに?』



「……ユウコからの、キス」



『…っあ』


私の顔が一気に真っ赤になる。
それを見てアスランは嬉しそうに笑った。
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