ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
あの事件のあと、
警察病院から家に帰った途端両親は、「もうアッシュに会わないで欲しい」と言った。
アスランが悪いわけではない。
むしろ、アスランが自分を盾に必死に守ってくれたおかげで私は無事だった。
それなのにどうしてそんなことを言うのか…そう思ったけど、たくさんの愛情を注いでくれた両親の涙を見たら「わかった」と言うことしかできなかった。
それから1週間、
外を歩けば後ろ指をさされ、友達を見つけて近付こうとするとそれを見たその子たちの親は私から庇うように離れていった。
「男に体を許してお金をもらってたんですって!」
「汚らわしい。」
「あんな子供のくせにオンナなのよ。」
「うちの子が誘惑でもされたら大変だわ。」
私に向けられる目はとても厳しかった。
あんな思い、出来ることならしたくなかったのに。
私だけならまだしも、その厳しい目は両親にも向けられていた。
わざわざ遠く日本から養子をとって、そういう教育をしていたんじゃないかとか、責任を持って育てないからこんなことになったんだ…とか。
いつしか、ママは病んでしまって家から1歩も出られなくなった。
でもパパは変わらず接してくれた。
食事の時の会話も、寝る前の額のキスも、まるであんな出来事がなかったかのように優しかった。
しかし、ある夜、
寝付けなかったので水を飲もうとリビングに向かった時、2人の会話を聞いてしまった。
「…あの子を養子にとったからこんなことになってしまったのよ。私はもうこんな生活耐えられないわ…」
「そんなことを言うもんじゃないと言っているだろう?あの子もとても辛い思いをしたんだ。私たちが支えてあげないといけないよ。」
「あなたは私のこんな姿を見てもそんなことが言えるの?!…あなたは私とあの子どっちが大切なのよ!」
「そんなのどちらも大切に決まっているだろう!?」
「あなた…、やっぱり私に子供が出来なかったのを恨んでいたんでしょう?」
「…急に何を言うんだ!」
「あなたの子供を産んでいればこんなことにはならなかった……死んでやる!!!」
「待てっ!!…わかった!お前がそこまで言うなら…明日ユウコに話をしよう。あの子は私の親戚のところにやって、ふたりでまた新しく暮らしていこう。」
私は、喉の乾きも忘れて部屋に戻った。