ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第11章 放たれたネコ
《アッシュside》
俺はそのあとに起きたことを話した。
ただひとつ、ふたりで銃のトリガーを引きその男を射殺したということを除いて。
ここまで話しておいて隠すこともないとは思ったが、言えなかった。
あれから銃で人を撃つなんて何度もあったことなのに何故かあのことだけは口から出てこなかった…
「…そう、だったんだね……そいつのやってきたことが全部明るみになって犯人が捕まって…そのあとは平穏に過ごせたのかい?」
「いや、小さい街だからな…、俺たちの噂はすぐに広まった。…可哀想だって話しかけてきたかと思ったら、影ではあいつは金で体売ってると言われたり、お前いくら?っていやらしい目でジジイに話しかけられたりもした。ユウコもそうだったよ…女だし、俺より酷かったかもしれない。」
「…散々辛い思いをしたのに、さらにひどい仕打ちを受けたんだね……とても心が痛いよ。…でもそんな最悪の状況から立ち直ろうとしたんだね、ファーストキスの上書きはきっと彼女の支えになってるはずだよ。」
「…でも、事実は消えない。」
「ユウコは、忘れない、もう大丈夫って言ったんだろ?それに、キミのファーストキスも、ユウコだけだよ。」
「…………あぁ。」
俺は自分を無理矢理納得させるようにそう言った。
「うん。…それ以上キミたちが傷つかなくて良かっ………ッ」
エイジはなにかを言いかけて手で口を覆った。
「エイジ?」
「…アッシュ、この前は少しはぐらかしてしまったんだけど………あの、」
「なんだよ?」
「…そのあともキミたちは、とても辛い経験を…しているんだよね…」
「なんだよ…やっぱり聞いてたんじゃねーか……
なあエイジ。」
俺は今まで、他人に7歳の時の話をしたことがなかった。俺たちの気持ちなんか分かりもしないくせに、同情されたくなかったから。
好きでこんな目に遭ったわけじゃないのに、その事実にずっと苦しめられ続けている。
でも俺は今、少し救われたような気がした。
こいつは…
エイジは、同情の目なんか向けない。
俺たちの過去をただ受け入れようとしてくれてる。
ユウコ、話していいかな…
俺たちの、あの地獄の日々を。
「なんだい?」
「…かなり重い話になるんだけど、聞いてくれるか?」
「ああ、…もちろんだよ。」