第2章 不思議の夢の歌劇愛好家«ミュージカルマニア»
安吾さんが退場するのと入れ替わりに、メイド達が真っ白なウェディングドレスを持って私の部屋に入ってきた。それに合わせて舞台のセットが動き、場面が転換した。私はまたもや舞台上で早替えをされ、ウェディングドレス姿になった。
場面は、皇帝陛下の結婚式の後のパーティーの場面に変わった。結婚式に参列した貴族の男女がおしゃべりをしたりしている。安吾さんも早替えをしてきたようで、先程の赤と白の軍服ではなく、今度は白で統一された軍服姿だった。そして、私に手を差し出した。安吾さんは微笑むと
「踊りましょうか?」
そう言って私を抱き寄せ、踊る姿勢をとる。私達が踊り始めるのと同時に、舞台の盆が回り始め、周りにいた貴族の男女達も踊り出す。ダンスなんて初めてだったけれど、安吾さんのリードが上手で何とかなった。けれど、これ程密着した状態で安吾さんに見詰められると物凄く恥ずかしくなって、途中から私は安吾さんを正視出来なくなった。
「どうかしたのですか、さん?」
安吾さんがそっと声を掛けてきた。
「えっと、なんというか恥ずかしいというか…。」
と私は少し口ごもった。
だがその時、私はドレスの裾に躓いてしまう。
「さん!?」
安吾さんが抱き止めようとしてくれたが、遅かった。私はそのまま顔面から舞台に転倒した。舞台はしんとなった。恥ずかしさと痛さで、私は舞台の袖に引っ込みたかったが起き上がるのも恥ずかしい。
「これだから、田舎娘を、皇后に、迎えるなど、私は、反対だった、のですよ…。」
ヒールの音と共に歌舞伎の女形のような声が響く。かなり棒読みで、しかもかなり羞恥に耐えたようなその声。私の前方、安吾さんの後ろからその声の主は登場したらしい。
そっと顔を上げると安吾さんがその人物を振り返る。そして、安吾さんの肩越しにその人物の顔を見た私は、吹き出しそうになった。
「母上!」
皇帝陛下の母親、つまりゾフィー皇太后を演じていたのは、なんと武闘派組織「黒蜥蜴」の百人長の素敵おじ様の広津柳浪さんだったのである。