第1章 いのち短し恋せよ乙女
ー後日譚ー
こうして龍之介との初めての旅行は忘れられない思い出になった。舞踏会の翌日、龍之介は任務が控えていた為、先に帰国する事になった。私は残りの数日はホテルで優雅な缶詰め生活を送り、休み明けの業務に支障をきたさぬように準備した。そして、帰国した翌日、お土産を手に本部に出社した。
「やぁ、ちゃん、1週間のお休みはどうだったかね?」
首領は、にこにことエリス嬢を膝に乗せ、話し掛けてきた。エリス嬢は、デスクの上の新聞にお絵描きをしている。
「はい、とても楽しい旅になりました。お土産をどうぞ。」
「あら、、お土産はなぁに?お菓子かしら?」
キラキラと目を輝かせるエリス嬢にお土産を差し出した。その時、執務室をノックする音がした。
「入りなさい。」
そう言うと、龍之介が入ってきた。私達は事前に打ち合わせしていた通り、普段通りに接する。
「おはようございます、芥川さん。お久しぶりです。」
「…おはようございます、さん。」
「あっ、芥川さん、私、お休みを頂いて旅行に行っていたんです。お土産どうぞ。」
そう言って、私は後で渡そうと思っていたあの、イニシャルの刺繍の入ったレースのハンカチを今渡す事にした。予想外の私の行動に龍之介は少し眉を顰めたが、
「…、ありがとう、ございます。」
そう言って私に、一瞬目配せする。私も悪戯っぽく目で合図する。彼は少し恥ずかしそうにして、さっと私のお土産を黒い外套の胸ポケットに仕舞った。
「ところで首領、何か僕に御用だと伺いましたが。」
龍之介のその言葉に首領は、エリス嬢がお絵描きをしていた新聞を取り上げ、見せてきた。エリス嬢は、リンタローの馬鹿、返してよと膝の上で暴れている。
「そう言えば、この新聞にちゃんが旅行に行っていたヴェネツィアの写真が乗っているんだけど、随分と人でごったがえしてたんだねぇ。女の子1人で大丈夫だったかい?
折角だからちゃんの旅行の話を君も一緒に聞くのはどうかなと思って呼んだまでだよ。」
私達は、その写真を見てギョッとした。それは、あのカジノでの舞踏会の様子で、なんと、私と龍之介がキスしている写真だった。首領はにこにことその写真を指差しながら、こちらを見ている。
こうして私と龍之介の秘密の恋人関係は、首領にバレてしまったのだった。