第1章 初恋は突然に/ピックアップ御礼・記念作品
その後も青年は完成度の高いマジックと軽快なトークで観客を沸かせ続ける。
しばらくショーに見入っていると ふと香ばしい醤油の香りに鼻孔をくすぐられた。
香りの出所を探ると…ーー
!
ああ、あれか。
斜め前の少年が出来たてホヤホヤの焼き鳥を食べている。
広場に来るまでの道に屋台があった、きっとそこで買ったんだろう。
空腹時にこの匂いはたまらない。
手品が終わったらどこかで昼御飯でも… そう提案しようと莉菜さんの顔を覗き込むと、その視線も俺と同じ焼き鳥に注がれていた。
「…もしかしてお腹減ってる?」
「!」
こっそり耳元で話しかけると莉菜さんが勢いよく振り向く。
「う、うん… ちょっとだけ」
俺に勘付かれて恥ずかしいのか少し顔が赤いようだ。
「実は俺も。すぐそこに焼き鳥の屋台があったから買ってくる。君はこのまま手品を見てて」
「…! ありがとう、待ってるね」
その場に莉菜さんを残し、観客の間をすり抜けて屋台へ向かった。
ーーー
屋台でネギマの焼き上がりを待つこと10分。
焼き待ちしてる間にショーが終わったらしく、広場へ戻るとほとんどの観客は帰った後だった。
広場全体を見渡して莉菜さんの姿を探す。
「!」
あそこだ。
莉菜さんは手品用に作られたステージ脇に居た。
だけど…ーー
「そんなこと言わねーでさ、明日もやってるから観に来てよ!」
「無理です、仕事なので!」
「仕事なんてちょっと抜けて来りゃいいじゃん」
…??
ショーを終えたばかりの手品師の青年と話をしてる。
何を話してるんだろう。
莉菜さんの表情から察するに、とでもじゃないけど楽しくお喋りしてるようには見えない。
妙な胸騒ぎを覚えた俺は歩くスピードを速めて二人に近付いて行く。