第1章 初恋は突然に/ピックアップ御礼・記念作品
参道の先にあった寺を参拝してから安土城下へ戻ってきた。
いつの間にか雨は止み、雲の切れ間から太陽が顔を出してる。
「紫陽花きれいだったね! 涼しかったし」
「ああ、マイナスイオンが豊富で気持ちがよかった。500年後と同じ梅雨の風物詩をここでも見られたのは感動だと思わない?」
「あー そっか! 紫陽花はこの時代から500年後までずっと同じように咲いてるんだもんね…」
そう言って隣を歩く莉菜さんの足取りは軽い。
元気を取り戻してくれたみたいで良かった。
「私ね。ここ最近、ホームシックになってたんだ。いい歳して恥ずかしいんだけど やっぱりふとした時に家族や友達に会いたいなって」
「大丈夫、恥じなくていい。ごく自然なことだと思う」
「佐助くんはそんなのあった?」
「俺…?」
そう言えば。
ごく自然と言いながら俺はホームシック的なものは無かったな。
「俺はもともと両親の影響で歴史好きだったし馴染むのは比較的早かったかもしれない。あと手に職をつけて生き延びることで精一杯だったっていうのもある」
「…! そっか、ごめん」
「? 君が謝ることはないだろう」
「ううん… 佐助くんは私なんかよりもっと過酷な環境を強いられてたと思う。ホームシックなんてなってる場合じゃなかったよね」
「それは否定はしない。来る日も来る日も謙信様に斬りかかられて大変だったから」
「だよね… 私、自分のことばっかりで…… ほんとにごめん」
「……ーー莉菜さん」
歩みを止め、しょんぼりする彼女の方に向き直る。
「忍になるまでの道のりは確かにハードだった。でも結果、この乱世で君を守れるほどのスキルを身につけられたわけだから俺は納得してるし満足もしてる」
「佐助くん……」
「だから遠慮しないで、これからも思ったことは何でも話してくれると嬉しい」
「…っ、ありがとう」
莉菜さんの顔に笑みが戻りホッとしたその時、
(ーーワァッ、パチパチパチ………)
どこからか大きな歓声と拍手の音が響いてきた。
「? 今の何だろう」
「あっちだ。行ってみよう」