第1章 初恋は突然に/ピックアップ御礼・記念作品
数日後。
小雨が降りしきる中、俺と莉菜さんは安土城からそう遠くない寺を訪れていた。
青や白、ピンクの紫陽花が参道の両脇を彩り、幻想的な雰囲気を醸し出してる。
雨でしっとりと濡れた紫陽花は風情があっていいな。
「きれい… 紫陽花って雨が似合うよね」
「ああ、俺も今同じことを思ってた。まさにベストな組み合わせだ」
傘を差し、ひと気のない石畳の道をゆったりと歩きながら山肌に咲き乱れる紫陽花を観賞する。
「あっ!」
…? 莉菜さんが何かを発見したようだ。
「佐助くん、見て! カタツムリ!」
「ほんとだ」
「くすっ、動きが遅くて可愛い〜」
濡れた葉の上をのんびり移動するカタツムリを二人で見守る。
「可愛いね」
「…ああ、可愛い」
確かにカタツムリは愛嬌があって可愛らしい。
けど正直、俺はカタツムリよりも莉菜さんの横顔に目が行ってしまっていた。
虫は苦手でもカタツムリは平気なのか?
殻が無ければただのナメクジだけどナメクジはビジュアル的にどうなんだろう。
「あっちの方にムラサキ色の紫陽花もあるみたい!行ってみよ!」
ボンヤリしてる隙に莉菜さんは身を翻し、違う方へ駆け出す。
慌てて自分も振り向くと、
「佐助くん! こっちこっち」
ムラサキの紫陽花を背に、無邪気に笑う莉菜さんが手招きしていた。
それを見た瞬間、
「…ー!」
(ドクン)
心臓がひとつ音を立て、周りがキラキラ光り始める。
何だこれは…?
閃光弾をまともに喰らったかのごとく眩しい。
「…今日の君の着物もムラサキ色だな。もしかして紫陽花を意識して?」
「あ、分かる? そうなの、紫陽花に合うかなぁと思って!」
急な現象に戸惑う俺の前で莉菜さんは くるりとターンしてくれた。
(ドクン)
「っ…」
まただ。
眩しい上に胸まで苦しい。
まずいな、鍛錬で身体を酷使し過ぎて知らないうちに目と心臓を患っていたのかもしれない。
続くようなら医者にかからないと……
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