第1章 初恋は突然に/ピックアップ御礼・記念作品
「莉菜、入るぞ」
「はぁ〜い」
秀吉さんが襖を開き、部屋に入って来た。
「こーら、お前はまたそんな薄着で… いくら暑くても着物はちゃんと着るよういつも言ってるだろ?」
「だってぇ」
薄着…ーー
そのワードに反応して思わず天井板の隙間から覗く。
「………」
たしかに薄着ではあるけど、想像していたほどの薄着じゃなかった。
ホッとしたような残念なような気持ちでいると秀吉さんが要件を話し出す。
「今日は良い知らせを持ってきた。お前が夏バテしてると聞いて信長様が特別に氷菓を用意して下さったんだ」
「え! それってアイスのこと!?」
「愛の巣…?どういう意味だそれは。とにかく信長様の御前に行く前にもう少しキチンとした着物を着なさい」
「分かった、着る!」
信長様が、氷菓を?
この時代では貴重な氷を莉菜さんに……
「それと政宗が今晩、鰻を食わせてやるって言ってたな。家康は冷たい貼り薬を作ってくれたみたいだぞ」
「そうなの!?やった!」
政宗さんは鰻、家康さんは冷湿布…
色んな武将が莉菜さんの為にと気遣ってくれてる、彼女にとってすごく幸せなことだ。
なのに俺はどうしてこんなにドス黒い気持ちに?
もしかしてもしかすると俺は……ーーー
「ふんふん〜♬」
動揺する俺を他所に莉菜さんは衝立の裏でルンルンで着物を羽織ってる。
「秀吉さん おまたせ!この着物で大丈夫かな」
「ん、可愛い可愛い。よし、じゃあ行くか」
秀吉さんが着替え終わった莉菜さんの頭をポンと撫で、二人で部屋を出て行った。