【ONE PIECE】トラファルガー・ローに愛されて。
第1章 淡い。
* * * *
ドサ…ッ。
家から引きずり出され、地面にうつ伏せに倒される。
両手首には、慣れた手つきで海楼石がはめられた。
私は俯いたまま、島民に顔の表情を見られない角度で、口角を吊り上げる。
(私の【影】は、生まれつきのモノだから…)
こんなもの、意味ないのにね。
けれど私は抵抗する気など全くなく、寧ろ嬉しい、などと、達成感に満ちていた。
心配事といえば一つ…、家の中に匿っている海賊の男のこと。
雨がうっすらまだ降っているというのに、人々が持っている木の棒の先に…燃え盛る火を見た。
(家を、焼き払う気か…!!)
私はすぐにバレないように右手の指先を曲げ、家の中にいる海賊を拘束していた影を解いた。
そして、黒い手を形作ってインクペンを持ち、机の上に散乱している紙に書きなぐる。
――――右にある部屋の床下に、抜け道がある。逃げろ!
これを見たのなら、手を握って。
そう書くと、手を握った感覚が伝わってきて、ホッとした。
そんな安堵も束の間で、人々は私の髪を掴み上げ、引っ張り、無理矢理立たせる。
手錠の所為で力が使えない、そう勘違いしている周囲の人間たちは、私を嘲るように笑った。
「力を使えないお前など、怖くない!!」
「使える【バケモノ】だと思っていたのに…」
(バケモノ、か…)
間違っていない、当たっているじゃないか。
海賊は例外なく悪、だと。
そう洗脳に近い意識を、思想を、ずっと刷り込まれてきた人々を避難しながらも…。
私は、彼等の言われた通りに何人もの海賊を殺めてきた。
拒否することもできたというのに。
(私が…一番の、悪じゃないか)
よく燃えるように、そう言って家にガソリンを大量に撒く。
バシャッとかけられるのを見る度に、心が磨り減っていくような感覚がした。
見下すように私を見て、目の前に火を持ってくる。
「ざまぁみろ、人の皮を被った魔女…」
『―――――――…』
(やめて…)
燃やさないで。
心の叫びは、喉の奥に引っかかったまま。
火は炎に変わり、数々の思い出が勢いよく、揺らぐ赤に奪われ尽くされていく。
身体は雨にうたれてとても寒いのに、顔は熱かった。
「処刑しろ、そのバケモノを…っ!!」
―帰る家を、失った―