【ONE PIECE】トラファルガー・ローに愛されて。
第6章 花筏。
右手で、鞘に入ったままの剣を持つ。
俺からはハッキリと、女が微笑んでいるのが見えた。
背後に気配を感じ、剣を引き抜き、振り返る。
気配に向けた切っ先の先には、海面にいたはずの女が立っていた。
『ほぅ…、よく気づいたな』
「全員、よく聞け。この女に手を出すな」
『…あれ、アンタ……』
―――――この子の、想い人じゃないか。
目を見開き、動きを止める彼女。
意味不明な言葉を呟き、再び笑い出す。
今度は腹を抱えて、滑稽、滑稽、と呟いた。
俺は、彼女から視線を外さずに、剣を向け続ける。
『あははははっ!! …はぁっ、こんな再開もあるものだねぇ』
「何を言っている…?」
『この子は、お前の想い人じゃないか…?』
そう言いながら、彼女は自分の胸元に右手を当てた。
さっきから、何を言っているのかさっぱり分からない。
だが、見覚えのある姿に、どこか違和感を抱く。
―――――記憶を消された後では、何を言っても無駄か。
「記憶を…消された…、?」
『…どうせ、戻ることはないだろう。哀れなものだな、お前も、シェリル・フローザーも…ッ!!』
吐き捨てるように言い放ち、覇気を放つ。
数人の部下たちは意識が飛び、その場に倒れ込む。
覇気を受けた瞬間、俺の頬に誰かが触れた感触がした。
その頬に触れると、『映像』が頭に過ぎった。
*
「嫌いになった訳じゃないの。…むしろ、大好きよ」
苦渋の決断をした顔。
影の隙間から見える、彼女の……。
―――――心の底から、愛してる。
“law,iruhyur irwa qeiinty”
目隠しされた隙間から、見えた文字。
「すべて記憶から滅せよ、この忌まわしき私を…」
「足跡も、触れた痕も、すべてすべて、すべて―――――…」
空に、泣き声を響かせていた。
海面に浮かんでいるボートの中から。
俺を見つめて、子供のように泣きじゃくって。
「ロー…、ろー、ろぉ…!! あぁぁ…っ!!」
意識が消える瞬間まで、何度も、聞こえていた。
愛しい声が。
(―――――――シェリル…、)
*
「…シェリル…?」
―呟いたのは、愛しい彼女の名前…―