【ONE PIECE】トラファルガー・ローに愛されて。
第5章 生花。
「やめてくれ…」
頭から出血し、地面に這いつくばっている男。
いつものありきたりな台詞。
変わらない情景に、私は、ただ、退屈そうに、見下ろした。
『なんで? 喧嘩を吹っかけて来たのはあなた達じゃないの』
ドスッ
影が、身体を突き抜けた鈍い音。
あが…っ、と、男はぐっと声を押し殺したようなうめき声を上げる。
そんなのお構いなしに、私は影で形成した、長い刀の切っ先を、彼の首めがけて振り上げる。
『さよなら、元気でね』
「うっぁ…やめ―――――っ」
ザクンッ
…ピチャっ、と、顔にかかった血痕。
深い赤色が温かく、熱を帯びているのは、人間がそれまで生きていたという証。
地面に突き刺さっている刀を抜き取り、切っ先に付着している血を振り払った。
「バケモノ…ッ!!」
『……私は、バケモノ…』
リトア島で、島民から言われた罵声を思い出し、小さく呟いた。
【人を殺すと、自身の魂がすり減る】と、いう事を聞いたことがある。
じゃあ、私は…?
私は、もう人ではなく、本当にバケモノになってしまっているんじゃないか。
『バケモノ…?』
人を殺すことに、何の躊躇いも…なくなっている自分は。
真っ赤な炎に似た色の、温かい血で、両手を染め上げている自分は…。
―自分を、見失っていく―