【ONE PIECE】トラファルガー・ローに愛されて。
第3章 散り際。
* * * *
私は小さくスキップしながら、ウェベリーがたくさん入ったカゴを手に、家に向かっていた。
お気に入りの煙管はポケットの中。
家に到着し、ドアノブに手を伸ばした瞬間、何か違和感を感じた。
(ピンクの…、羽)
この島に、こんな鮮やかな鳥なんて、いない。
ぞわっと首筋に寒気がして、伸ばした手を引っ込める。
本能が激しく警告している、ここから早く遠くへ逃げろ、と。
此処にいては、絶対に危険だ、と。
『………はっ、ぁ……!!』
(あの男が、この島にいるッ!)
霧が濃い森を、駆け抜ける。
ウェベリーが入ったカゴは、無造作に家の前に置き去りに。
全力疾走、無我夢中…。
どうしてバレた、此処にいることがっ。
何年も…上手に…、アイツからは逃げ切ってきたはずなのにっ!?
(ぬかったッ!!)
しかも今回は、海軍でもなければ、部下の人間でもない。
当事者の本人が、王下七武海の『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』が相手となれば…厄介。
緊急脱出用の小舟を停泊させている、島の裏側が見え始めた。
『…はぁっ、あ゛、ゲホッ…!!』
肩で息をする暇も、惜しい…。
急激にはね上がった心拍数、相当のプレッシャーで、今にも死んでしまいそうな勢いだ。
捕まってしまえばきっと、ぶち殺されるに決まってる。
フラフラになりながら、私は小船へと歩んだ。
「何処に行く気だァ…? シェリル??」
全身の血の気が引いた。
あの日から、初めて言葉を交わした日から、ずっと耳の奥にこびり付いて離れなかった、低い声。
瞳孔が、開ききったまま声の聞こえた方を向く。
ひッ…ぁあッ、と悲鳴を口から漏らせば、彼は愉しげに笑うばかり。
『こっ、来ないで…!』
「なんだよ、連れねぇなァ…」
『来ないでって言ったのッ!!』
歩みを止めようとしない彼に指先を向けた。
はずなのに、ピタ…ッ、と指先から身体まで凍り付いたように動けない。
ハッとして彼をよく見ると、ニヤニヤしながら、こちらに人差し指を向けていた。
迂闊だった…ッ、と自虐的に顔を歪めれば、ドフラミンゴはさらに機嫌を良くした。
「まァ、そう怖い顔するなよ。お前を迎えに来たんだぜ?」
『む、かえ……?!』
「あァ!! お前みたいな最高な玩具、他にいねェからなァ!」