【ONE PIECE】トラファルガー・ローに愛されて。
第1章 淡い。
* * * *
「おい」
ビクっと体を震わせた。
目を覚ますと、そこは血の海でも炎の中でもなかった。
ただ冷たい、ひんやりとした空気がある牢屋。
夢か…と、ため息混じりに呟くと、人の気配がある方を振り返る。
(……あれ?)
『目つきの悪いお兄さん、じゃないの』
「…誰がだよ」
どうして、ここに?
驚きもせず、安堵の表情を浮かべることもなく、ただ平然と彼を見る。
出会った時にもあった目の下の隈を見て、ふふ、と笑った。
それが気に触ったのか、ピクッと目の下が痙攣した。
不機嫌そうな顔が、もっと悪くなった気がする。
「お前、どうして逃げないんだ」
『生きるのに疲れたから』
にこやかに笑って。
納得いなかい、というような表情の彼は、ハ…ッと息を吐く。
そして、自分の背丈よりも長い刀を鞘から抜き取り、私を繋いでいた足枷を切った。
これには私も驚き、目を大きく見開いて、その断ち切られた鎖を見つめていた。
(な、んで…)
「シェリルは、死ぬのが怖くないのか」
『!! …久しぶり』
「……?」
『何年振りかな、名前で呼ばれたのは…』
自然と笑みが溢れてきて、彼を見上げた瞬間、頬を何かが伝う。
それが何なのか、まったく分からなくて、ペタッと手で触れてみるとそれは水だった。
彼が泣いているのか、と上を再度見上げたけれど、違う。
切なそうな視線を、私に送り続けているだけだった。
「お前のだよ」
『………?』
「それはお前のだって、言ってんだよ」
(私が泣いてる…?)
「…俺と来い、シェリル」
『私は死にたいの、放っておいて』
「そうか…」
好きにしろ。
彼は刀を鞘に戻して肩にかけ、足で牢の扉を乱暴に開け、出て行った。
見張りの人間は皆、気を失って倒れている。
私は開けっ放しの扉を閉め、背を向けてしゃがみ込んだ。
『これでいい…』
―でも、生きたいと思っている自分がいる―