【ONE PIECE】トラファルガー・ローに愛されて。
第1章 淡い。
過去
* * * *
「お母さん…っ!!」
「逃げなさい、シェリル」
(…あぁ、これはあの時の)
心の深淵に葬った、自身の記憶。
私は、悪魔の実を食べたような能力を、生まれた時から持っている、非常に稀な一族に生まれた。
母は、目を合わせた人間を石に変える、メデューサのような能力で。
父は私が幼い頃に、海賊に殺されたらしい…。
「此処にもいたぞ!!」
「きゃあぁあっ!」
(…………)
母は、私を路地裏に隠して。
ズル…ズル…、と引きずられても必死に抵抗する母は、両目を赤く光らせ、目を合わせた海賊たちを石にしていく。
たくさんの人たちが、奴隷にされるか売られるかで、次々と捕まっていった。
「あ、ぁ…」
(初めて見た海賊が、彼等だったよね…)
そう、怖かった。
路地裏で震えている幼かった自分を見下ろし、頭を撫でたけれど、すり抜けた。
まぁ、当然だろう、夢なんだから。
スッと彼女は立ち上がり、勇気を振り絞って路地裏から抜け出す。
目の前に広がるのは、炎に焼き尽くされていく町、家、そして人…。
『あーぁ、残酷ね』
「お母さん…っ?」
姿のない母を探して。
あはは、ひっどい顔してるなぁ…。
彼女は青白い顔をして、無我夢中で燃え盛る火の中を走り出す。
ここから先は見たくない…、そろそろ目を覚まさないかなぁ、自分…。
そう思いながらも、少女を追いかける。
「シェリル…」
「いやぁああぁあっ、お母さんっ!!」
『…お母さん……』
痛々しい姿に目をそらした。
背中には刀が何本か突き刺さっており、腹を貫通している。
頭部からも出血しているのか、額から頬にツゥ……、と一筋の赤が流れていた。
そのか細い白い手を私に伸ばし、苦しいはずなのに、心配させまいと必死に笑っている母がいる。