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アフタヌーンティーはモリエールにて

第8章 月夜のティラミス


「誤解されるような発言はやめろ。あと俺がそのお巡りさんだ。」


言いながら鷲掴みにしている指先に力を籠める松田に、杏奈はだったら止めてくださいぃ~と抗議の声を上げる。
モリエールでは既に見慣れた光景だが、はじめて見た人間はぎょっとするだろう。本当に通報されかねないと、松田は彼女を解放した。

悪徳警官…とこめかみを抑え、ぼそりと抗議の声を漏らす杏奈に、学習能力がないのかとあきれながら、松田は言葉を吐く。


「お前は図書館になんの用……って、聞くまでもねぇな。」


話の流れで杏奈が図書館を訪れた理由を尋ねようとした松田だが、彼女の手元をみてすぐに言葉を取り消した。
杏奈の手元には、松田が声をかけるまで目を通していた毒薬に関する本がある。

声をかけるまで気づかないほど熱心に読んでいたことと、彼女の口からこぼれた物騒な発言を以てすれば、おのずと答えにたどり着く。


「また何か書いてんのか?つか、お前宿題はもう終わったのかよ。」


学生の身分である杏奈にも、当然ほかの学生たちと同じように大量の課題が出されているはずだ。
しかし彼女の手元には、どう考えてもそれとは関係なさそうな資料。

お盆が明ければそう時間もかからずに夏休みが明けてしまう。趣味に時間を費やした結果、宿題が終わりませんでしたなんて、教師たちの笑い話にもなりゃしない。

わざわざ口うるさいことを言うつもりはないが、なんだかんだで杏奈のことを気にかけている松田は、それが気がかりだった。

怪訝そうな松田の表情に、杏奈はへらりとゆるく微笑む。


「だいじょーぶです。とっくに終わらせてありますよー。」


その言葉に胸をなでおろしたのも束の間、バイト以外はほとんど家に篭り切りだったのでーと続いた言葉に、こいつ友達いねぇのか?と少し心配になった。

思っていたことが顔にでていた松田に、杏奈はちゃんと友達とも遊んでますのでご心配なくーと、少しむくれたように告げる。
バイトと趣味に夏休みの大半を費やしてはいるが、彼女は彼女なりに夏休みを満喫していた。
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