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アフタヌーンティーはモリエールにて

第7章 あまーいバニラの香りを添えて


「気になってたみたいだから、お手洗いにいってるあいだに買っておいたんだよねぇ。」


杏奈の覗き込む紙袋のなかに入っていたのは、昼食を食べたお店で、レジに並ぶあいだ彼女がずっと見ていた茶葉だ。
萩原は杏奈の視線に気付いて、彼女がいないあいだに、こっそりと購入していたのである。

スマートな萩原の手際に、杏奈は驚きに目を丸くしたまま、ぼけーっと彼のことを見ていたのだが、それじゃなかったかな?と不安そうに眉をさげる姿に、ブンブンと慌てて首を横に振った。


「あってます、欲しいって思ってたやつです。ありがとうございます…!」


感動して昂ぶった気持ちの所為で、薄紅色に染まった頬を緩め、ふわりと顔を綻ばせて笑う杏奈は、とても綺麗だ。
心の底から喜びを表現する杏奈に、萩原も安心して、そして少し照れくさそうに、よかったと笑みを浮かべた。


「実はわたしも……萩原さんに、今日のデートのお礼にって思って。」


可笑しそうに笑いながら、杏奈は萩原に紙袋を差し出す。
紙袋は中華街で買い物にはいったお店のもので。他のひとのお土産や自分用とは別に、彼女はこっそりと萩原にもプレゼントを買っていたのだ。

差し出された紙袋に目を丸くした萩原だが、気に入ってもらえるかどうかわからないですけど…とへにゃりと微笑む杏奈に、ありがとうとプレゼントを受けとる。


「……もしかして、お茶?」


紙袋の口をあけた瞬間に香ったのは、香り高い紅茶の香り。
中を覗くと、ラッピングされた茶葉のつまったビニル袋が見えた。

自分をみる萩原に杏奈は、はいと微笑む。


「"祁門紅茶(キームンこうちゃ)"です。」


"紅茶のブルゴーニュ酒"と称されることもある"ダージリン""ウヴァ"とならび、世界三大銘茶の一つとされている、中国原産の紅茶だ。

水色は鮮やかな赤。滋味は穏やかで柔らかくほのかな甘みがあり、蘭の花や果実や糖蜜の香りの混ざり合う、甘く瑞々しい香りが特徴である。

中華街で入ったお店で取り扱っているのを見て、杏奈はこれだ!と購入していたのだ。
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