第7章 あまーいバニラの香りを添えて
「萩原さんって……松田さんのこと大好きなんですねぇ。」
萩原は気付いていないが、彼は松田のことを話しながら、ふわりと穏やかで優しい微笑を浮かべている。
普段モリエールで見るふたりの様子から、信頼していることは分かっていたが、これは想像以上だったと杏奈は思った。
へらりと何故かうれしそうに、ニコニコと自分をみる杏奈に、彼女の素直さにつられてついつい、普段ならば口にしないことを言ってしまった自覚のある萩原は、その言い方はやめてくれないかなと、苦い顔でコーヒーを啜った。
「てか、なんでデートに来てまで松田の話してるんだろ。」
「萩原さんが最初に聞いてきたからじゃあないですか。」
はぁ…と溜息をつく萩原に、杏奈は間髪入れずに返す。
そうだっけ?そうですよと違いに言葉を返したふたりは、次の瞬間どちらからともなく吹き出した。窓から差し込む朝の陽のひかりが、二人の笑顔を優しく照らす。
あははと一通り笑いあった二人は、そろそろ移動しますかと席を立つ。
店の外へ出ると、空かさず萩原がスッと自然な動きでまた腕を差し出して。杏奈もデート再開ですねと、笑顔でその腕を取って歩き出した。
カフェを出た足でとなりに併設されている資料館を訪れたふたりは、横浜の歴史と異国の文化に触れ、潮風を浴びながら海岸沿いの公園内を散歩して、車に戻る。
そのまま"赤レンガ倉庫"に滑り込むと、ふたりはウィンドショッピングを楽しんだ。
気になるお店に入っては、お互いに気になるものを手にとって、あれやこれやと意見を言い合い笑いあう。
ファッション店や雑貨屋など、一通り見てまわった二人は、モール内にある、お茶の専門店に入った。
店内では日本茶から紅茶、中国茶までさまざまな種類のお茶が飲めるらしく、少し歩いたふたりは昼食がてら休憩をすることに。
一緒に見てまわったお店のことや、普段ショッピングをする店舗や自分なりのこだわりポイントのことを話しながら、和やかな時間を過ごした。
食後にのんびりと少し席ですごして、二人は席を立つ。
店内で提供しているお茶は、全て購入できるらしく、レジ付近の棚には、色も形も材質も異なるお茶缶が、綺麗に整列していて。