第7章 あまーいバニラの香りを添えて
暫くして、店員が注文したものを運んできた。
杏奈の前に、パンペデュルーーフレンチトーストーーとホットのアイスミルクティー。萩原の前に、クリームチーズデニッシュとアイスコーヒーが置かれる。
いただきますと揃って手を合わせた二人は、早速テーブルの上に手を伸ばした。
まず杏奈は、ミルクティーではなく、甘い香りを立ちこめさせるパンペデュルへと手をつける。
黄金色に輝くそれをフォークで抑えながらナイフを入れると、サクッと軽い音がした。最近流行りのものとは違う感触に、杏奈の期待値があがる。
甘い香りと湯気の立ち昇るパンペデュルを、杏奈はパクッと一口。
「〜〜〜〜〜っっ!」
口に入れて数回咀嚼した杏奈は、声もなく感激する。
パンペルデュは最近はやりのトロトロしたものではないが、外がカリッとしていて、なのに中はふんわり柔らかく、噛めば噛むほどに素材の甘さが広がった。
これで"出来損ないのパン"とはフランス人は贅沢だなぁ。
甘さもしつこくなく、優しい甘さに、杏奈は蕩けそうになる頬を両手でしっかりと抑える。
口の中のパンペデュルを味わって、杏奈はロイヤルミルクティーに口をつけた。
コクリと飲み込んで、ホッと息を吐き出す杏奈。
「……しあわせの味がする〜。」
へにょりと緩みきった笑みを浮かべた。
口に広がるパンペデュルの甘さが、アッサムの深いコクと華やかな香りと混ざり合ってなんとも言えない多幸感に包まれる。
アッサムティーは、濃厚なコクと甘みが大きな特徴となるため、砂糖は加えずにミルクだけ加えたのだが、これで正解だった。
今にも蕩けてしまいそうなーーそれこそ表情筋まで蕩けたようなーー笑みを浮かべ、全身で幸せを表現する杏奈に、向かいに座っていた萩原が吹き出す。