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アフタヌーンティーはモリエールにて

第7章 あまーいバニラの香りを添えて


萩原が立ち止まったのは、白い大きな洋館風の建物の前。
建物の手前には石柱の立派な門がかまえられており、外にはパラソル席がある。白い洋館風の建物には蔦が這っていて、白と緑のコントラストが美しい。


「朝食はここでと思ってね。」


公園の前の通りに面した場所にあるこの建物は、人気のカフェだ。
朝からやっている店内には、朝食をとっている人たちの姿も窺える。
杏奈は萩原の言葉に、キラキラと瞳を輝かせた。


「いいんですか!このお店ずっと行きたかったんです!」


白い洋館風のこのカフェは、杏奈が一度は訪れたいと思っていたカフェだった。

かつてイギリス領事館であった建物のとなりに店を構えるこのカフェは、こちらも元はそのイギリス領事館の守衛室だったものだ。
内装はリフォームされているが、窓は当時のものがそのまま残されている。
紅茶の国イギリスに所縁のあるこのカフェは、紅茶好きの杏奈からすれば、一度は訪れたい憧れの地であった。

しかし隣県とはいえ距離があることと、バイト代の大半は紙に消えてしまうこともあって、足を運ぶことができていなかったのだ。
感激だと全身で語る杏奈に、それなら良かったと萩原は笑って、二人揃って入店する。

店内に足を踏み入れると一瞬にして、パンとコーヒーの香りに包まれた。
ドアを開け入口前の小さなカウンターには、それぞれ個性の違うパンたちが肩を並べている。入った瞬間から杏奈のテンションは最高潮にまで高まった。

どれも美味しそうなパンたちに目移りしながら、その中からひとつずつ選んで、二人はセットドリンクと共に会計を済ませる。当然、萩原が全額負担した。

パンは一度温めてからドリンクと共に提供されるため、二人はちょうど空いていた窓際の明るい席へと腰を下ろす。
注文の品が運ばれてくるのを待つあいだ、杏奈は改めて店内を見渡した。

全部で20席ほどのこじんまりとした店内は、壁やドア、テーブルクロスと全てが白で統一されており、木目を生かした焦げ茶の調度品の数々に自然と目が向く。
各テーブルには小さなグリーンが飾られており、オシャレでありながらもどこか暖かい雰囲気が満ちていた。

心を揺さぶられ胸を押さえながら、わぁ…と小さく声をもらす杏奈に、萩原は連れてきてよかったと心の底から思う。
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