第7章 あまーいバニラの香りを添えて
全て任せるのはさすがに悪いと、杏奈もなにかしら提案しようと思っていたのだが、絶対に杏奈ちゃんが楽しめるデートプラン用意しとくからと期待しててと言われてしまい、食い下がるのもかえって失礼にあたるかと引き下がったのだ。
信号のほうへ向いていた顔を杏奈に移した萩原は、気になる?と微笑む。
どこに行くのか気になっている杏奈は、素直にこくんと頷いた。萩原はニッコリと笑みを深める。
「ナイショ。着いてからのお楽しみでーす。」
ニッコリと萩原はいたずらな笑みを浮かべる。
あー。この人も松田さんとは違うタイプの人をおちょくるのが好きなタイプ人だったなぁ。
萩原は松田のように余計な一言や、あからさまに人を煽るようなことは言わないが、こうして答えをはぐらかすことはままある。
だから松田さんと仲良くできるんだなぁと、萩原にも松田にも失礼なことを考えた。
「わかりました。楽しみはとっておきます。」
杏奈は呆気ないくらい素直に引き下がった。相手が教えるつもりがないのだから、これ以上きいたところで無駄である。ムダなことはしないに限る。
素直に引きさがった杏奈に肩透かしをくらった萩原は、ここで素直に引きさがるのが杏奈ちゃんらしいと心の中で唱えて、ははっと声を出して笑った。
「まぁ俺なりに杏奈ちゃんを後悔させないプランを考えたつもりだから、楽しみにしててよ。」
パチンと得意げにウィンクを飛ばす萩原に、はーいと返事をした杏奈は、信号がかわったことで再び前をむいた萩原にならって、前を向く。
その後ふたりは、流れる風景をみながら取り留めのないやり取りをした。萩原は話の引きだしが多く、杏奈はBGMもない車内でも、飽きることなく楽しく過ごすことができた。
車を走らせてどれくらいの時間が経っただろう。
駐車場に車を停めた萩原はそのまま外へでる。彼にエスコートされながら杏奈も車を降りて、改めて辺りを見回した。