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アフタヌーンティーはモリエールにて

第6章 夢見心地のマドレーヌ


ニタニタと喜びからニヤける杏奈に、松田はむっと顔をしかめると、マズいコーヒー飲まされちゃたまんねぇからなと、ニヤリと意地悪く笑った。

相変わらずの松田の言動に、素直じゃないなぁと内心呟いて、杏奈はため息を零す。


「絶対にいつか、美味しいコーヒー入れてやりますよー。」
「へーへー。期待しないで待っててやるよ。」


精々がんばれと笑う松田の顔には、絶対に無理だとバカにする色が、有り有りと浮かんでいる。ムッと唇を尖らせた杏奈は、絶対にギャフンと言わせてやると、誓った。

それから閉店準備を進めながら、松田とぽつりぽつりとやり取りをして、店内に残っているお客が、松田ひとりになった頃。
ティーカップの中身も底をつき、松田も席を立つ。


「なぁ、お前。閉店準備おわったらもう帰るんだよな?」


会計を済ませて、スタンプを押したポイントカードを返却すると、松田は杏奈にそう尋ねる。

店内にはもうお客の姿はなく、杏奈も閉店準備を終えたらもう帰るつもりだ。最後にレジを締めて鍵をかけるのは、店長である森の役目であるため、仕事のあとに店内に残っていると彼の迷惑になる。

松田の問いに、そーですけど?とこてんと首をかしげる杏奈。


「そっか。んじゃあ、閉店準備がんばれよ。」


問いかけてきておいて、松田は特に興味を持った素振りもなく、ひらりと片手を上げて、モリエールをあとにした。
一体なにが言いたかったのか。杏奈は首をかしげたまま、松田の出ていったドアを見ていたが、閉店にしましょうと森に声をかけられ、ぱたぱたと閉店準備へと戻った。

お客が減ってきたころから少しずつ閉店準備を進めていたこともあり、そんなに時間を要さずに準備を終えることができた杏奈は、ロッカールームで着替えてから、お疲れさまでしたーと森に声をかけてモリエールを出た。

お疲れさまですと、森の穏やかな声を背にドアを閉じて、顔を上げた杏奈は、そこに立っていた人物にビクリと肩を揺らした。

黒いスーツにサングラスをかけ、タバコを吸う男。
その身なりや立ち姿は、どこからどう見ても、一般人ではない。

これ…通報案件では?
警察に通報するか、それよりも先ずは店内に残っている森に知らせるべきか。杏奈は悩む。
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