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アフタヌーンティーはモリエールにて

第5章 マシュマロとガトーショコラ


「でもそれって同義だよね。告白してないのにフラれるより、俺の方がマシだと思うけど?」
「はぁ?考える間もなく断られたヤツがなに言ってんだ?」


バチバチと二人の間で火花が散る。
別に二人は杏奈に恋愛感情を抱き、本気で告白したわけではないため、言うほど傷付いてはいない。
しかし彼らのプライドを傷付けてしまったのは事実である。

お互いに売り言葉に買い言葉で煽り合う松田と萩原を、松田の手から解放されても尚痛む頭を抱え、杏奈は見上げた。

あー……これは止めに入りたくないわー。
今や恋愛と全く関係ないことで煽り合う大人ふたりを見上げ、杏奈は悟る。止めに入ったら確実にとばっちりがくる雰囲気を、察したのだ。

今は場所が場所であり、年齢を重ね多少落ち着いたーーあくまでも当時に比べればの話ではあるがーーために舌戦だけで留まっているが、本来ならば遠に拳が出ている場面だろう。それは彼らの警察学校時代の話を聞けば、容易に想像がつく。

二人を止めに間に入りとばっちりを受けるくらいならば、じっと落ち着くのを待つか、一層のこと思いっきり笑い飛ばしてしまう方が被害は少ない。なるほど、納得である。

しかし残念ながらこの場には、降谷も景光も伊達もいない。
この状況を止められるのは、杏奈だけだ。
徐々に言い争いがヒートアップしてきて、それに比例して声も大きくなってきた。いい加減、他のお客の迷惑になる。それと背中に突き刺さる、森の視線が鋭さを増したのを杏奈は感じていた。


「まぁまぁお二人ともー。落ち着いて紅茶でも飲んでくださいよー。」


杏奈は意を決して、二人の間に割って入ると、のんびりとお茶を勧める。
しかし事の発端は、杏奈が言葉選びを誤り、二人のプライドを傷つけてしまったことが原因だ。

当然、松田と萩原は誰のせいだと声を揃えて抗議するが、杏奈のペースは変わらない。


「それに私、お二人のことは普通に好きですよ。」


にへらと緩い締まりのない顔で微笑む杏奈に、松田と萩原は揃って目を丸くした。
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