第5章 マシュマロとガトーショコラ
彼女は何も恋愛感情があってこの言葉を口にしているわけではない。人として好んでいるという話だ。
しかし杏奈の言葉は純粋な好意に溢れている。にへらと照れ臭そうに微笑む彼女に、松田と萩原ははぁ……と思いっきり嘆息した。完全に毒気を抜かれてしまった。
「やっぱり杏奈ちゃんは面白いねぇ。」
「まぁ、飽きはしねぇな。」
こんなにペースを乱される女の子は久しぶりだ。
しかも歳下。末恐ろしい女の子だ。
大人の二人を手玉にとる少女に、クスクスと楽しそうに笑う萩原に、松田もクツクツと楽しそうに喉を鳴らす。
杏奈は何故ふたりが笑っているのか分からず、こてんと首をかしげるが、まぁ笑ってるならいいやぁと、ふはと小さく笑いを零した。
「でも、デートには行きたいなぁ。」
ニッコリと微笑む萩原は、杏奈のことをすっかり気に入ってしまった。こんなに自分の思い通りにならない女の子も、落としたいとかではなくて純粋に親しくなりたいと思う女の子も久しぶりのことで。もっと彼女のことを知りたいと思った。
とっておきのデートプラン作るからさとパチンとウィンクする萩原を、まだ言ってるのかと呆れつつ松田はティーカップを口に運ぶ。
杏奈はぱちくりと瞳を瞬かせた後に、へらりと微笑んだ。
「いいですよー。松田さんも行きましょうねー。」
付き合うことは出来ないが、デートくらいは問題ない。
快諾して自分を見上げる杏奈に、松田は目を丸くしたあとに、そうだなとくしゃりと少し乱暴な手つきで彼女の頭を撫でた。
自分のデートを受け入れるだけでなく松田もデートに誘う杏奈に、侮れないなぁと萩原は末恐ろしい少女を見て微笑んだ。
それから三人はケーキと紅茶を手に、和やかにティータイムを過ごした。
歳は離れているが揃いも揃ってミステリー好きということもあり、話題は尽きることなく、久しぶりに感じる穏やかなひと時に、萩原と松田はたまにはこんな日があってもいいだろうと、抗うことなく杏奈の醸し出すまったりとした空気に身を任せた。
そして後日、萩原は女性を連れてくることなく、普通にモリエールの常連になり、松田と杏奈と三人でティータイムを過ごすことが多くなるのだが。
それはまた別のお話。
ーー マシュマロとガトーショコラ ーー