第5章 マシュマロとガトーショコラ
「ーーごめんなさい?」
こてんと杏奈がそう口にした。
萩原と付き合えないと言った杏奈が、彼と同じ立場である松田を受け入れるわけがない。
だが、どういった理由で杏奈が断っているか判らない萩原は、彼女の答えを聞いた瞬間に思いっきり吹き出した。一方で松田は想定していなかった言葉に、一瞬なにを言われたのか理解が追いつかず、彼女を見つめたまま数秒ぽかんと惚ける。
あはははと爆笑する萩原の声をBGMに、次第に理解が追いついてきた松田は、比例するように眉間の皺も深くなって。
「っんで、ごめんなさいだコラ。」
松田は杏奈の顔面を片手で掴むと、グッとそのまま力を込める。所謂アイアンクローだ。
もちろん手加減はしているが、それにしても女子に対してかける技ではない。
顔面を片手で鷲掴みにされる杏奈は、痛い痛い〜!と悲鳴をあげる。
「だってなんか怒ってたからぁ……!」
眉間に深く皺を寄せて自身を見下ろす松田を見て、怒っていると感じた杏奈はこの面倒くさい状況に、不機嫌になっていると思った。
だからこの状況に巻き込んでしまったことに対する謝罪も含めて"ごめんなさい"と口にしたわけだが。
しかし松田に当然そんな意図など伝わるはずもなく、告白もしていないのに断られたような状況に、松田は納得ができずに杏奈に手をあげた。彼女はまたしても言葉の選択を誤ったわけである。
「怒ってねぇ。いや、今は少しキレてるけどよ。つか、萩原テメェもいつまで笑ってやがる!!」
杏奈の顔面を鷲掴みにしたまま、松田の怒りの矛先は向かいで大爆笑する萩原に向かう。
ヒーヒー言いながら目元に涙を浮かべている萩原を、先程の自分のことを棚に上げて、笑いすぎだろ!と松田が一括した。
断られてんのはテメェも同じだろうがと松田が吐き捨てた瞬間、ピクリと萩原が反応する。
「いやいやぁ。俺は"ごめんなさい"とまでは言われてないからぁ。」
「あ?俺だって"付き合わない"とまでは言われてねぇよ。」
どうやら互いのプライドに触れてしまったらしい。
松田は杏奈から手を離すと、萩原と向き合う。対する萩原も、ニコニコとした笑みはそのままに、萩原を正面から見据えて。