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アフタヌーンティーはモリエールにて

第5章 マシュマロとガトーショコラ


ハッとようやく意識を取り戻した萩原は、笑いすぎて過呼吸に陥っている松田に、ムカムカと怒りを募らせる。
そして、そっかぁダメかぁと諸々の感情ーー松田に対する怒りや笑顔で拒否されたショックなどーーを押さえつけて笑みを浮かべた。


「ちなみにーー松田はどう?」


ニッコリと笑顔で杏奈に問いかける萩原の言葉に、はあ!?と松田は笑いを引っ込めて萩原を見る。
彼は相変わらずニコニコと無駄に綺麗な笑みを浮かべて、向かい側に腰掛ける少女をみていて。

コイツ…!自分があっさり断られたからって、俺まで巻き添えにするつもりだ!!
長年の付き合いで萩原の意図を正確に読み切った松田は、杏奈に答えなくていいと言おうと口を開く。

しかし、口を開きかけたところでピタリと動きを止めた。

ここで俺がオーケー貰ったら、もっと面白いんじゃね?
松田はその可能性に思い至ってしまったのだ。
杏奈と松田は、少なくとも今日あったばかりの萩原よりは互いのことを分かっている。今日知り合ったばかりのほぼ他人である萩原よりは、オーケーを貰える可能性はあるだろう。

それにもし断られたとしても、大してダメージねぇし。
目の前に既に断られている人間もいるし、その一部始終を見ていたのだから、杏奈に同じように断られたところで、そうかと思うだけで、不意打ちで殺されたーー心とか自尊心とかをーー萩原に比べれば大きなダメージはないだろう。

ならばここは大人しくしていた方が、むしろ面白いかもしれない。
松田は自分の中の悪魔の声に従ってしまう。


「え〜?松田さんはー……。」


杏奈の澄んだ海色の瞳が、松田を捉える。
ジッと見上げてくる瞳は、松田を捉えて離さない。

こんな至近距離で彼女と見つめ合うのは、初めてで。
その純粋で綺麗な澄んだ色に見つめられ、松田の心臓が柄にもなくドキドキと脈打つ。
思わず杏奈を凝視したまま、グッと松田の眉間に皺が寄る。

数秒見つめ合って、杏奈の唇がゆっくりと開いた。
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